「お!獅郎〜遅いじゃねぇか!」 「悪い悪い」 にゃはは、と独特の笑い方をする少女、と呼ぶには育ちすぎた、女と呼ぶにはどこか幼すぎる、そんな不思議な人が赤い髪と豊満な胸を揺らして手を振る。 「ん〜?獅郎、そいつは?」 垂れ目がちの目が細められ、獅郎さんがぽんと私の背を押しながら彼女に向かって紹介した。 「こいつははな。蒼井はなだ。燐と雪男と一緒に引き取った子でな。今は詠唱騎士として訓練してる祓魔師訓練生だ」 「へぇ〜」 「はじめまして、ええと」 「こっちはシュラ。霧隠シュラ。じゃじゃ馬騎士の俺の弟子だ」 「じゃじゃ馬ってなんだよ〜」 潤んだ唇を尖らせるシュラさんの態度が二人の親密さを伺わせる。 燐と雪男、二人が生まれる前の弟子なのだから、付き合いは12年以上か。 「よろしく、シュラさん」 「ふぅん?」 上から下へとまじまじと値踏みするような視線。明らかに見下されている。 しかし噛みつくほど子供ではない。 余裕を持って笑みを繕えば、シュラさんは二の句は告げず獅郎さんの手を引いた。 胸を押し付けるように腕を絡める。明らかに、こちらを意識した行為であること感じられる。 「つか獅郎が来るなんて久しぶりなんだからさぁ〜今日くらい私と手合わせしようぜ?これでも強くなったんだし〜」 「んなははは、老体に鞭打つんじゃねぇよ」 「むー」 直感的に、この人は獅郎さんが好きなんだと伝わった。 甘える声音や、自分の体を武器にする仕草。たが生憎獅郎さんには相手にされてないみたいだ。 まぁ歳も離れているし仕方がないかもしれないが、獅郎さんの理性がすごい。あんなに胸を押し当てられているのに微塵も動揺しないのだから。 もしかしたらもう何度も繰り返されたことなのかもしれない。それはそれで、望み薄なんではないだろうかと考えたのは邪推とは言えないだろう。 「そだ、なら3人で無限モードやるか?」 「あれつまんないにゃー」 「まぁそういうなって、はなもいいだろう?」 「獅郎さんが言うなら」 頷けばシュラさんは目を細める。 気にくわない、という感情がありありと伝わって、存外幼い人だと思うと口許が勝手に緩んだ。 「じゃあ部屋の鍵借りてくるぜ」 「はい」 「おーう」 パタンとドアが閉じられた瞬間、シュラさんの腕が飛んでくる。 咄嗟に半歩身を引いたお陰で事なきを得るが、チッ、と鋭い舌打ちは隠されることはなかった。 「へぇ?弱そうに見えて案外やるにゃあ」 「シュラさんは思ったより姑息なんですね」 ぎらりと鋭くなった蛇のような視線は悪魔のようで、私は怯えないように拳を強く握る。 魍魎とは比べ物にならない凶悪さが滲んでいるその瞳に、真っ向から向き合うのはなかなか勇気が必要なことであったが、目を反らしたら負けである。なんの勝負かはわからないが、本能的に、侮られてはならないと感じる。 きっと、女の勘なのだろうと自分の中で結論づけた。 「あんた、獅郎のなんなのさ?」 「弟子兼保護対象の幼妻候補、ですかね」 虚勢を込めて猫のように笑う。 ついでにあることないこと厭味ったらしく付け加えれば、シュラさんの口許がひくりと引き攣った。 こんな安い挑発に乗るとは驚きだ。 「獅郎の好みはセクシーな女なんだよ」 たわわな胸に魅惑の腰つき。さらけ出された太ももなんかは確かにセクシーだ。けれど。 「公私共に支え側にいて仕事に理解のある料理上手、の方がただの床上手よりかはましでしょう」 瞬間喉元に突きつけられた刀はどこから出されたのか。 そして私もほぼ同じタイミングで銃を彼女の額に突きつけた。 いや、実際は私のほうがだいぶ遅れていた。シュラさんが手加減してくれなければ、おそらく首は飛んでいただろう。 「んだテメェ、詠唱騎士じゃなかったのかよ」 「竜騎士の資格も一緒に取るつもりなんです」 にこり、と笑えばシュラさんも応える様ににぃやり笑う。 なんとも、先ほど獅郎さんには見せなかった酷く獰猛な笑い方ではないか。 「おーい、戻ったぞって・・・なんだ、随分仲良くなったな」 どこをどうみたらそうなる。 そんなことを考えながら、私とシュラさんの声がきれいにユニゾンした。 「すっかり気があっちゃって!」 「すっかり気があっちゃってにゃ〜!」 「なははは!仲良きことは美しはなな、ってやつだな!!」 それが私とシュラさんの初対面だった。 獅郎さんで繋がった、大人で子供でちぐはぐな私たちは、よく言えば悪友、甘ったれて言えば親友、そんな関係になるのだった。 まんなかがたりない 20130528 tittle by 徒野 |