事の一件はなんとかざわめきが収まり、次に与えられた任務は出張所にいる祓魔師への仕出しの配達だった。 力仕事は男子に、女子は仕出しの手伝いである。 といっても流石に味付けではなく盛り付けやちょっとした調理の手伝いだ。 「いやぁ蒼井さん筋がええなぁ」 「料理は得意ですから。修道院には女性がいなかったので、自然と私が料理を受け持つようになって」 「健気やねぇほんま将来うちに来てほしいくらいやわぁ」 「あの、女将さん・・・」 「ホホホ、ま、頭の隅っこで考えといてな」 ぱちんと茶目っ気たっぷりに目配せをする女将さんの若々しい仕草に思わず脱力してしまう。 と同時に、やはりどこか嬉しいと感じる自分がいた。 「いいなぁはなちゃん。お料理上手で・・・」 「でもしえみちゃん。森林合宿の時よりも包丁さばき上達してたよ?」 「本当!?」 仕出しの手伝いも終わり、お弁当を食べてお湯を貰うことになった私たちは旅館の浴衣を持って温泉に向かう。 神木さんは雲隠れしてしまって、どうやら別の時間に入るようだった。 しえみちゃんの包丁の扱いの上達を褒めると、嬉しそうに笑ったが、次の瞬間にはしえみちゃんの表情はすっかり影っていた。 「しえみちゃん?」 「・・・ごめんね、はなちゃん」 「え?なにが?」 突然の謝罪に慌てると、涙をためた瞳でしえみちゃんは私を見つめ返す。 「私が、弱くて頼りないから・・・はなちゃんたちが、大変で、悩んでたのに・・・」 ほろっと零れた涙は、しえみちゃんの丸い頬に沿って制服を濡らす。 ごめんね、と繰り返すしえみちゃんが、あんまりにも綺麗で、私はほとんと無自覚に指先で涙をぬぐっていた。 「っ、はなちゃん!?」 「しえみちゃん。しえみちゃんは弱くなんかないよ。頼りなくなんかない。傍にいてくれるだけで、心があったかくなるし、安心できる。私や、燐や雪男は、しえみちゃんが大好きだよ。しえみちゃんが笑ってくれてたら嬉しい。だから、泣かないで」 自分でも、歯が浮くようなキザったらしい言葉だと思った。 でも、それでも。 それくらいしえみちゃんが大切なのだ。 大事な、友達なのだ。 泣いてほしくない。笑っていてほしい。 しえみちゃんの優しさは、いつだって私たちを包んでいるもの。 「はなちゃん〜〜〜」 「あははは、ほら泣かない泣かない」 抱きついてくるしえみちゃんを抱きしめ返す。 しえみちゃんの柔らかい花の匂いは私の胸いっぱいに幸せをくれた。 「ごめんね、心配かけちゃって」 「ううん・・・私も悪いの。私がもっと勇気があれば、もっと燐やはなちゃんに自分からたくさんお話してたら・・・」 きっとしえみちゃんは、塾や新幹線での不自然な態度のことを言っているのだろう。 誰だって戸惑う事なのに。そんなに気にすることないのに。 でもその素直さが、優しさが、しえみちゃんのいいとこだ。 「お願い、はなちゃん。教えて?燐の事、はなちゃんの事・・・」 「うん。わかった。ありがとう、しえみちゃん。大好きだよ」 「わ!私も!はなちゃんが大好きだよ!!」 ねぇ燐。 私たちはひとりじゃないんだよ。 こうして、私たちを好きだと言ってくれて、理解してくれようとしてくれる子がいるんだよ。 だから、きっと大丈夫だよ。 桜の庭で君を待つ 20130515 tittle by まほら |