逗留先の虎屋にはバス二台で向かう。 一台は私やシュラ、ほか祓魔師たち。 二台目は塾生と教師たち。 走行中のバスの最奥四列シートをどっしり構えてシュラは私と二人で使用している。 しかも前各2列づつ人払いをするという徹底ぶりだ。 濡れタオルで目許を冷やしながら、私は記憶とさほど変わらない京都の景観を見送っていた。 「で、なにがあった?」 単刀直入のシュラの言葉に、どこから話せばいいものかと曖昧に口元が緩む。 シュラは話を急かすような無粋な真似はせず、ただじっと待ってくれた。 「あの日、燐が暴れたあと目が覚めて、雪男に三日も経ったなんて言われてすごく驚いた。でもそれより驚いたのは、雪男に、家族じゃないって、いわれたことかな・・・」 まだ傷は癒えていない。 膿んだ傷口に塩をすり込むように、心臓はねじれて痛む。 「自分たちには関わらないでほしいって。もう一緒にいる必要ないって。私ね。燐と雪男が好きだった。獅郎さんの代わりに、私が守るんだって息巻いてて・・・でも、知らない間に嫌われてて・・・馬鹿みたいだよね。燐にも、無視、されてるし・・・」 「はぁ?何言ってんだ?燐のやつお前に会えないからメフィストの所連れてけってスゲーうるさかったぞ?」 「でも、新幹線の中とか。あの日だって!」 私を見るなり、怖がって、泣きそうになった燐。 シュラはシートに深く座り直し、少し口元を緩めながら笑った。 「ばぁか。燐はあの一件で自分の力がどれほど危険なものかって自覚した。あいつは、お前を殺しかけた」 「えっ・・・」 「あいつは今、自分の炎にビビってる。人間の心で使う炎じゃない。力に飲まれて、理性もすっ飛ばして、怒りにまかせて使う炎が人を殺す。あいつはそれに気付いちまった。お前を殺しかけた。その現実に、怖気づいてる」 とん、と指先を心臓に突きつけられる。 「雪男も、同じことに悩んでる。だからお前を突き放した。お前を死なせたくないからだ。嫌いになんかなれねぇくせに。あいつ別働隊として動いてるけどあたしが愚痴言ったらなんて言ったと思う?「僕だってはな姉さん不足なんだから我慢してください」だってよ。ったくこれだから尻の青いガキはよぉ」 「燐・・・雪男・・・」 胸の奥に柔らかな明かりが灯る。 それ以外、なんの言い表しようもなかった。 「わかっただろう?だから頼む。あいつらから逃げないでやってくれ。あたしじゃ獅郎の代わりなんてなれない。いや、獅郎の代わりなんかじゃない。燐にも、雪男にも。お前が必要だ、はな」 ほろりとまた溢れた涙は、新幹線の中で流した涙と同じくらい強く胸を締め付けた。 シュラはよしよし、とふざけた口調で私の肩を抱き、泣きじゃくる私の頭を撫でた。 やさしい声で、貸一な、だなんて囁くシュラに、甘えて私は声を殺して泣いた。 優しい、優しい、燐と雪男。 私の大事な家族。大切な、大切な子供たち。 どうして諦めてしまったんだろう。 どうして逃げようだなんて思ってしまったんだろう。 あんなに大切な子たちだったのに。 命に代えても惜しくなかったのに。 やっぱり私は、自分がかわいいだけの、最低な人間だ。 でも、でもそれでも。 二人を大切に思う気持ちは本物なんだ。 二人が、私を想ってくれる限り、私も二人を大切に。 違う。 もし二人が私を本当に必要なくなったその時でも、私はあの子たちを愛してるし、あの子たちの為ならなんだってできる。 あの時誓ったじゃないか。 意味のある命でありたいと。 燐を、雪男を、獅郎さんを、守れる命でありたいと。 そう誓ったじゃないか。 私の根源に注がれた、シュラの言葉で目が覚めた。 守るんだ。 私の、大切な人たちを守るんだ。 十三番目の魔法 20130310 tittle by 徒野 |