「・・・そうやったな・・・お前はサタンを倒すんやったよな・・・!?」
「そうだ・・・だから一緒にすんな」

低く押し殺しあう声は、冷静さなんて微塵もなくただひたすら剣呑さが増すのみだ。
収まっていたはずの燐の青い炎が燻るように揺れる。
まさに一触即発。
その現状を引き裂いたのは、またも三輪くんだった。

「わあああ!!やめて!坊から離れて!!」

燐に対して怯え震えていた三輪くんが燐の腕に掴み掛る。
怪我をしている腕も構わず、三輪くんは細い指で必死に燐に掴み掛っていいた。

「坊も・・・!僕らを家族というてくれはるなら・・・勝手はやめて下さい!お願いです・・・!」
「子猫丸・・・!」
「坊にもしもの事があったら、僕ら寺に顔向け出けへん・・・!」

ああそうか。
勝呂くんはお寺の大事な跡取り。三輪くんの必死さはこれだったか。
家族である。それもあるだがそれ以上なのだ。
アマイモンの時もそうだ。三輪くんは、勝呂くんの為なら自分の命も顧みないのだろう。

「坊!上!!」

はっとした志摩くんの声に顔を上げる。勝呂くんの頭上には生き残っていた囀石が落下していた。詠唱は間に合わない。
思わず身を固くした瞬間、どこから現れたのか、抜刀して飛び出したシュラが囀石を六等分に素早く切り刻み地面に転がした。

「シュラ・・・」

ほっとしたら力が抜けた。
そんな私たちをひと睨みするシュラの声は硬く厳しかった。

「お前らこんなザコ相手に何やってんだ!!本番でもそうやって互いの足を引っ張り合う気か?死ぬぞ!!」

言葉に詰まったのは私だけではない。全員だ。
わかっている。
だが、タイミングが悪かったのだ。

「はな!!」

突然名前を呼ばれて声が出ないままシュラに向き合う。
ふざけてはいないシュラの真剣な眼差しは、どこまでも深く私の心臓を傷つけた。

「この中じゃお前が一番実戦経験があるはずだ!どうして率先して動かない!誰かが怪我するまで気が回らなかったか?あぁ!?あたしが来なかったら勝呂は下手すりゃ死んでたぞ!」
「わ、私だって・・・!」

囀石を祓った。そう言いたいのに言葉にならない。
シュラの叱責は正しい。わかっているから言い逃れが出てこない。

「やる気がないなら祓魔師なんざやめちまえ!!」

シュラの声に全員が押し黙った。
胸のあたりから、顔中に一気に血液が上る。顔が痛い。鼻がつんと痺れて、次の瞬間には涙が溢れていた。

「え、うそ」

きょとんと眼を丸くしたシュラが滑稽だなんて思う間もなく、私の頭の中は真っ白になっていった。
悔しかったのか、怖かったのか、驚いたのか、嫌いになったのか。
わからない。わからないまま、涙が止まらなかった。

「シュラのばかぁ・・・!!」

勝呂くんや志摩くん、それに燐やしえみちゃんが驚いたようにこっちを見ていたが私はもう何も考えられなかった。

「あーくそっ・・・お前ら!とにかくこれ以上問題起こさず反省して駅着くまでおとなしくしてろ!!はなはこっちこい」

がりがりと乱暴に自分の髪をかいて、シュラは私の手首をひっつかんで別車両に移動する。
その力は、アマイモンや勝呂くんとは比べ物にならないくらい優しかった。
力なんて一切入ってないみたいだった。

「おいおい。お前らしくねぇじゃねえか、あんなみんなの前で泣くなんて」
「だっ・・・て・・・!!」
「メフィストが懲戒訊問かけられたあたりから燐も雪男の様子もおかしいし。逗留先に着くまで話聞かせろ。これ以上泣いててもいいけど、せっかくの別嬪が台無しになっちまうぞ〜」

シュラはにひひ、といつものようにふざけて笑って私の鼻の頭を抓む。
さっきまでの真剣さは嘘のようで、そして私を和ませようとしているのがわかると、どうしようもなくつらかった。
シュラは変わった。
昔はもっと意地悪で、捻くれてて、手が付けられないじゃじゃ馬だったくせに今は、獅郎さんがいなくなった今は、やさしい。それもひどく、やさしいのだ。

「ごめんっ・・・シュラぁ・・・!」
「ったく、お前いつもストレス溜め込んで爆発させる癖どうにかなんねーのかよ。燐と雪男に対してかっこつけすぎなんだよ。おら、そろそろ着くぞ」

私の髪を乱暴に撫でるシュラ。
ああ、懐かしい。
そんなふうに甘やかしてくれたのは獅郎さんだけだった。
獅郎さんはもういない。
それを伝えるようなシュラの触れ方は、酷く優しくて残酷だった。

「せめて、あたしには弱音吐けよ。立ち上がれなくなるぞ」
「うん・・・」

涙を拳て乱暴に拭う。
上出来!と笑うシュラは、人の両頬を抓んで釣り上げた。

「ひゅら、いひゃい!」
「にゃはは!ぶっさいくー!!」

そして子供みたいに笑う。
敵わない、そう思わせるシュラの優しさに、私は何とか落ち着きを取り戻すことが出来たのだった。


ライク・ア・チャイルドライク・チャイルド

20130302 tittle by 徒野