晴れて私はこの修道院の一員となり、共に燐と雪男が通う小学校に転入することになった。
真っ赤だが少しよれたお古のランドセルを背負って、私は獅郎さんの前で一回転。

「ごめんなぁはな、新品じゃなくって」
「いいですよ、この年でランドセルとか羞恥プレイ以外のなんでもないですし」
「ぶはっ!とんでもねーこという小学生だな!」
「だから写真撮るのやめてくださいよー獅郎さん」

はじめは藤本さんと呼んでいた私だがよそよそしいという理由から今や獅郎さんに落ち着いた。
獅郎さんは一眼レフを構えながらにやにやと笑みを隠すこともない。私は恥ずかしいやら情けないやらで無意味にスカートのすそを握る。
丁度その時、修道院からは黒く同じくよれたランドセルを背負った雪男と燐が飛び出してきた。

「はな姉きょうからおなじがっこうなんだろ?」
「いっしょにいこうよはな姉さん」
「うんうん、今日もふたりは元気だねぇ」

飛び付く燐の勢いが強くて思わず後ろに転びそうになったけど、さっと出された獅郎さんの腕のなかに私は収まる。

「燐、雪男。はなが学校で困ってたら助けてやれよ?」
「ああ!」
「うん!」

はにかむふたりが可愛くて、いいこいいこと頭を撫でる。
ネコ毛がふわふわの燐の髪と、細くしなやかな雪男の髪。

「よっしゃ!三人の初登校の記念写真とるから並べー!」

三人並んでピースサイン。
若いなぁ、と思ってしまった私の笑顔は失敗し、結局ぎりぎりまで撮影会が開催されてしまった。

***

学校生活を問題なく過ごすことは私にとっては赤子の手を捻るように容易かった。
私は精神年齢17歳で頭の足らない幼児上がりの言葉の暴力なんていたくもかゆくもない。
逆に笑ってしまいそうで腹筋がつらいのはここだけの秘密だ。
いつだって人間は自分たちと同じではないものを排除したいだけなのだ。
異端を追い払うことで自分達のコミュニティの正常化をはかる。
ふふん、あほらしい。
小学生にしていじめに走る子供たちの将来は知れている。
低学年の間は少数派の心ない言葉だけですんだが、中学年に上がった頃からクラスのリーダー各が私と雪男と燐をターゲットに絞った。
どうしても大人びて映る私はクラスの男子からはあからさまな好意から腫物のように扱われ、それが気に入らない女子からは村八分にされた。
雪男は体が小さく弱かったのでいつも追い詰められ、燐は力が強かったので雪男を守るために盾になった。
相手を殴ってしまうせいでいつも悪いのは燐のように思われる。
そして鬼だ悪魔だ化け物だと投げ掛けられる言葉に燐と雪男はいつも泣いていた。
私はそれが許せなかったので私は子供たちに向かってグラウンドの砂をぶちまけてやったことがある。
目が痛いと泣くガキを前に私は腕を組んで仁王立ち、ざまぁみろ。と鼻で笑ってやった。

「一対多数なんて卑怯だと思いません?獅郎さん」
「まぁなぁ。だからって相手を挑発するのはよくない」

そのあと子供たちは燐と雪男に飽きたらず、ついに私に手を上げる時がきた。
こう見えて美少女の部類に入るおかげで表だったいじめの対象にはならなかったけど、女子による教科書の落書きやものを隠されるのは日常茶飯事。
いい加減頭に来ていた私は軽くぷっつんしたわけで。

「暴力や嫌がらせでしか事を解決できない奴は猿以下ね。いや、猿に失礼かな。あなたたち、生きる価値あるの?」

幼心に侮辱された事を知り、もちろん殴られたが計算済みだ。
か弱い少女の顔を殴る。
学級問題、公開処刑。
モンスターペアレントが乗り込んでくることさえ想定済みだ。
だいたい子供の喧嘩に親が出てくるのはナンセンス。
そんなこと通じるはずもなく、私は親にまでひっぱたかれた。

「けどはなは女の子なんだから無茶しちゃあ駄目だろ?」
「でもね、獅郎さん。私許せないの。燐も雪男もすごくいい子なのに。そんないい子のふたりが傷つくの嫌なの。私はふたりよりずる賢いから、こんな風にしかできないけど。ふたりを守りたいって思ったの」
「・・・だが、自分を傷付ける方法は駄目だ」
「・・・ごめんなさい」

赤く晴れた頬にガーゼを張られる。
愛らしい子供の頬に大きなガーゼはあまりにも痛々しかった。

もとの家族のことが思い出せない私にとって、燐と雪男と獅郎さんは家族だった。
かけがえのない人。
この時から、私の中で家族と他人の線引きが明確になったのだ。

私はひどく冷めていた。
家族以外に、興味はなかった。


かわいそうなあたしたち

20110712 tittle by ルナリア