「・・・なんの話ですか?ボクは無視されるのはキライだな」
「ガボッ・・・!」
「勝呂くんっ!!」
「やめろ!!!やめろ・・・」

ゆっくりと立ち上がった燐が、降魔剣を握っていた。
それが、なにを意図するところかを知るのは私と、燐と、アマイモンの三人だけだ。

「燐・・・だめよ・・・」

私の震える声に、燐はただ一瞥をくれる。

「兄さん!!」

はっと振り返れば、息を切らし肩で荒く呼吸をする雪男がいた。
顔色は険しく、青い。

「これは罠だ!!誘いに乗るな!」
「雪男・・・はな・・・わりぃ、俺・・・嘘ついたり誤魔化したりすんの・・・向いてねーみてーだ。はなも言っただろ?人に優しく、嘘をつかない、素直でいることって・・・俺は、やさしい事のために、力を使いたい。だから俺は・・・」

ゆっくりと、鞘から降魔剣が引き抜かれる。
待ちわびたとばかりに刀身から漏れた青い炎。その光が、眩さが燐の体を包みこむ。
そして、牙と耳が鋭く尖り、その瞳と、体に、青い炎が宿った。

「燐っ・・・!」

私は、ただ燐の名前を呼ぶことしかできなかった。

「来い!!相手は俺だ!!」
「・・・アハハ!!」

狂気的な笑みを浮かべたアマイモンは、しえみちゃんと勝呂くんを放すと、弾かれた様に燐に向かって突進を始めた。

「先生、奥村くんはあれ・・・どうなって・・・」
「話は後で!とにかくこの場所から離れましょう。急いで!」
「・・・坊」
「・・・う・・・魔剣・・・」
「え?」
「倶利伽羅」

私の耳に、確かに勝呂くんの声が届いた。
何故、彼がその名を知っているのか。
負傷した志摩くんに肩を貸している雪男には届かなかったみたいだ。
しかしそれよりも。私はアマイモンと共に森の奥に消えた燐ばかりが気がかりだった。
どうせ、深く考えてもわからないことばかり。
ならばせめて、私は心のままに動くしかない。
私は獅郎さんに誓ったんだ。

守るって。
燐も、雪男をも、私が守るって。

「蒼井!!」
「えっ・・・はなさん!!」

背後で呼び止める声を振り切って、私は青い炎を追いかける。
燐。一人でなんか、戦わないで。
わたしたちは、協力しなければすぐに死に至る弱い生き物なのだから。


青の屈折 光の最期

20120609 tittle by まほら