「待ちなさい!アマイモン!」
「待て!テメーこの間といいなんなんだ!!しえみをどうする気だよ!!」
「どうしましょうか・・・うーん。そうだ、この女はボクのお嫁さんにしよう」
「はぁ!?」

木の上に到着したアマイモンは無表情のままそう言い放つ。
ふざけているのか本気なのか、アマイモンはしえみちゃんを抱いたまま向きあった。

「そうなったらさっそく契約しなくては。“アナタは病める時も健やかなる時も、ボクを愛し、ボクを敬い、ボクを助け、その命の限り、固く節操を守ることを誓いますか?”」

うつろな表情のままのしえみちゃんが人形の様に頷く。

「では誓いに唇を噛みちぎってあげましょう」
「しえみちゃん!!!」
「ふ ざ けんなぁ!!!!」

燐が思いっきり跳躍して鞘におさめたままの降魔剣でアマイモンに殴りかかる。
しかし次の瞬間にはカウンターを決めたアマイモンの力によって燐の体が遠くに吹き飛ばされた。
酷く鈍い音と、木々を薙ぎ倒す風の音に私の悲鳴がかき消えた。

「燐!!!!」

悪魔の身体能力は人間をはるかに凌駕する。
そして人間以上に強靭な肉体を持っているとはいえ燐だって無事では済まない。
私はとにかく吹き飛ばされた燐を守るために、詠唱短縮で何重にも衝撃軽減の祈りを叫んだ。
大地が割れ、木々が倒され、世界が揺れる。
必死に後を追うが距離が開きすぎては詠唱の効力はない。

「蒼井!!」
「勝呂くんっ・・・みんな!どうして障壁の外に出てるの!!」
「そんなもん蒼井さんもやろ!!怪我はっ」
「私は大丈夫、それより燐がっ・・・」
「どっちや!」
「むこう・・・!」

障壁を抜けだしてきた勝呂くんに手を引かれ、私はもつれそうになる足で必死に走る。その後ろに志摩くんと三輪くんも続く。
ようやく見えたアマイモンの背中。
その瓦礫の上に倒れる燐に心臓がつめたく冷えた。

「っのやろ・・・!」

勝呂くんは手持ちの花火に火をつけアマイモンに向かって投げつける。
こちらを振り返るアマイモンの視線に、勝呂くんは不敵に笑ってもう一本の花火に火を点けた。

「俺らは蚊帳の外かい。まぜろや」
「よせ・・・バカ!!」
「奥村くん!もしスキが出来たら逃げるんや!」
「俺はあくまでも杜山さんを救うためやからね・・・」
「なにを・・・」

花火を知らないのか、それとも炎が怖くないだけなのか。
微動だにしないアマイモンと逃げる気配のない燐。
私はスカートをたくしあげ散弾銃を取りだした。

「な!?蒼井っ!!」
「が、眼福や!!」
「志摩さん黙っとり!」
「しえみちゃんを離しなさい。アマイモン。頭を打ち抜かれたくなかったらね」
「それは知っています。銃ですね」
「この距離なら外さないわよ」

銃口をアマイモンに向ける。その隣で三輪くんのあっ、という声が響いた。
手元が狂った三輪くんの花火がしえみちゃんの顔すれすれで爆発した。
だがどうやらしえみちゃんに怪我はない。ただ、アマイモンの突起の髪がいわゆるアフロに膨れ上がっていた。

「フグッ・・・!!ブロッコッリ・・・!!」

緊張感の欠ける志摩くんの言葉に空気がざわつく。

「志摩くん!!」

跳躍したアマイモンが志摩くんの体に蹴りを入れる。
吹き飛ばされた体は木の幹にぶつかり鈍い音を立てた。
そのまま勝呂くんの正面に向かうアマイモンだが三輪くんが立ちふさがる。
しかし、その細腕はアマイモンが軽く小突いただけで骨をへし折った。
もし、CCC濃度の聖水での重防御がなければ、と思うと肝が冷えた。

「うわああ!!」
「子猫丸!!ヴッ・・・!!」
「ボクを笑ったな」

勝呂くんの喉を締め上げるアマイモンの声音は冷たい。
私は動くことが出来ず、それでも銃口はずらさない。
ただ、しえみちゃんと勝呂くんが近すぎる。とてもじゃないけど手は出せない。

「・・・お前になんか用ないわ。俺が腹立ててんのはっ・・・手前や奥村!!手前勝手かと思えば人助けしたり、特に能力もないかと思えば好プレーしたり・・・謎だらけや・・・!なんなんや手前は!なんなんや!!」
「お・・・俺は」

勝呂くんの言葉が、響き渡る。
言い淀む、燐。
私は、ひたすら銃口を合わせる。
何故、今なのか。死に直面しているからか。わからない。
ただ。
勝呂くんは、燐を理解しようとしていた。
歩み寄ろうとしていた。
それが、悲劇を加速させただなんて、私たちは思いもよらなかった。


とんがった柔らかなナイフ

20120518 tittle by is