「いやーなんとか高等部の方も一学期無事終了だよ」
「ほんと。燐が補習とか補習とか補習とかなくてよかった」
「俺だって本気を出せばだなぁ!!」
「雪男にちゃんとお礼言うのよ?」
「はい・・・」

しょぼんと肩を落とす燐。
テストの度に私と雪男の二人がかりで教えていたのだから赤点を取るはずはなかったが、いかんせんスパルタだったからそれを思い出しているのだろう。

「奥村君!蒼井さん!」
「おう子猫丸!」
「塾やなく高等部で会うの初めてやねー」
「終業式終わったら“正十字学園駅”に集合やろ」
「奥村君らも一緒に行こ」
「そうだね、みんなで行こうか」

周りの生徒たちもざわめきつつ駅に向かっている。
長い休みに入るので、里帰りする子たちが多いのだ。

「お前らって全員京都なんだよな。京都ってやっぱ風流なのか?」
「別にフツーや」
「京都かー」

果たしてここの京都は私の知る京都と同じ京都なのだろうか。
きっと全く違う京都なのだろうと思う。
未だ馴染んでいないわけではない。ほんの少し、ずれを感じるだけだ。

「そこのバカ5人。早くしないと遅刻するわよ!」
「チッ、うるせーまゆげだな」
「燐、女の子にそんな事言っちゃダメだよ。しえみちゃんにはそんなこと言わないでしょ?」
「なななななんでそこにしえみが出てくるんだよ!」
「奥村くん顔真っ赤やでぇ〜」
「うるせー!!」

***

「皆さん。今日から楽しい夏休みですね!ですが候補生の皆さんはこれから“林間合宿”と称し・・・“学園森林区域”にて3日間実戦訓練を行います。引率は僕奥村と霧隠先生が担当します」
「にゃほう」
「夏休み前半は主に塾や合宿を強化し、本格的に実践任務に参加できるかどうか細かく皆さんをテストしていきます。この林間合宿もテストを兼ねていますので気を引き締めていきましょう」

はいと重なった返事を合図に、私たちは学園森林区域の山道を登っている。
舗装されて歩きやすいとはいえ、熱くて虫も多い山道は険しい。それに体よくいえば合宿だが行って見れば野宿に近いキャンプ。リュックに詰められた装備が重い。
途中の滝で小休憩を挟みながた頂上付近に到着する。開けた場所にテントを張るらしく、雪男がてきぱきと指示を飛ばした。

「この森は日中は穏やかですが日が落ちると下級悪魔の巣窟と化すので日暮れまでに拠点を築きます。男性陣は僕とテントの設営と炭熾し、女性陣は霧隠先生の指示に従ってテント周辺に魔法円の作画と夕餉の支度をお願いします。じゃ、始めましょうか!」
「お、脱がはった」
「さすがに暑かったんやな」

なんて向こうで男子がはしゃぐ間に私たちもさっさと魔法円を描いてしまおうかとコンパスを取る。
こいつがなかなか重かったんだなぁ。

「シュラ、魔法円の種類は?」
「あ〜?先生をつけろよはな」
「そんな木の上で猿みたいにしてる人をどう見れば先生って呼べると思ってんの?」
「口うるせぇなぁ・・・たく。ほい」

のんびり見物を決め込むシュラは胸の谷間から魔法円の縮図を投げてよこした。
ひらりと舞った紙を片手で受け取る。

「! 絶対障壁・・・?シュラ、なにをしようって言うの?」
「言ったろー夜になるとここは悪魔の巣窟になる。下級とはいえ保険だよ保険。にゃはは」

本当にそうだろうか。少し釈然としない。
かなり厳重な結界の類だ。なにかがあるのだろう。だがそれが何かはわからない。
私は大人しくその縮図の紙をしえみちゃんと神木さんと手分けして作図に取り掛かった。


惑う星たちへ告ぐ

20120306 tittle by 徒野