「無事全員候補生昇格・・・!おめでとうございま〜す☆」
「お・・・おおお〜〜っしゃ〜!」
「よ、よかった!」
「やった〜」

ほっ、と息をつく神木さんの隣で私がよかったね、と笑うと神木さんは当然よ!といつものように、でも少しはにかみながら笑っていた。
燐や勝呂くんたちもはしゃいでいる。

「ていうか神木さん今日サイドポニー可愛いね」
「は!?何言ってんのよ別に可愛くなんかないわよ!」
「かわいー」

真っ赤になる神木さんはとても女の子らしい。
いいなぁ。やっぱり髪は長い方がいろいろ髪型ができるし。

「私ももう少し長く伸ばそうかなぁ」
「・・・いいんじゃない。あんた、髪が長くても似合いそうだわ」

思わず、ぱっと神木さんの方を見る。

「なによ!」
「神木さん、すごく素敵な女の子だね!」

はぁ!?とまた真っ赤になる神木さんの声は、勝呂くんたちの「もんじゃかい!」だなんて声にかき消されてしまった。
神木さんは皮肉も嫌味もはっきり言う。その分、本当の気持ちもはっきり言うのだ。
真っ赤な表情は、とても皮肉でも嫌味でもない。

昇格祝いにメフィストさんがもんじゃ焼きをおごってくれるらしく、私たちは正十字学園町のもんじゃ屋さんにいる。
80年代初期を思わせる様だ、駄菓子屋さんと兼業しているもんじゃ屋さんは酷く奥まっていて分かりにくいが、隠れた名店らしくいい匂いが漂っている。

「チーズ豚モチもんじゃと、あと豚玉ミックス広島焼きと、めんたいチーズもんじゃもお願いします」
「かしこまりましたー」
「みんな飲み物追加いいー?」
「ええよー」

なんてのんびりと追加注文しておく。
もんじゃ焼きは美味しいけどあんまりお腹膨れないからね。
ボウルに入った生地が来ると熱くなった鉄板にさっさと流す。最初はもんじゃから。
あんまり作らないけど、出来ないことはない。
さくさくとへらを動かす。もんじゃは案外早く焼き上がるのだから。

「雪男、お話もういいの?」
「うん、まぁ、ね」
「・・・はい。これラムネね」
「ありがとう」

ネイガウス先生の凶行を、雪男をはメフィストさんに報告した。
恐らく謹慎になるだろうネイガウス先生の本心。
あの確固たる殺意は、まだ私たちの胸に突き刺さっている。
私はそれを忘れる様に必死にもんじゃを掻きまぜた。

「いやぁ蒼井さん手際ええなぁ」
「もうそろそろ食べれるよ。しえみちゃん熱いから気をつけてね」
「うん!私もんじゃって初めて!」
「こうやってへらて焦げ目作って食べるんだよ。勝呂くんと三輪君も、もう行けるよ」
「ほないただこか」
「神木さんウーロン茶おかわりいる?」
「もらうわ」
「うおーうまっそーいただきまーす!」
「ほら燐!がっつかないの!」
「え・・・ちょ・・・待!貴方たち!ここのチーズ豚モチもんじゃは私の大好物ベスト3なんですよ!!」
「メフィストさんそんなに騒がなくてもちゃんとありますから!」

なんてぎゃあぎゃあいいながら食事が始まる。
メフィストさんの祝いの言葉なんてみんな右から左だった。
流石若者。食気だなぁなんて思いながら私は空いたスペースに豚玉ミックス広島焼きの生地を流し込む。

「あの、蒼井さんも食べてくださいよ?さっきから焼いてばっかりやないですか?」

三輪くんが困ったように聞いてくる。
別にそんなつもりはないけど、気遣い上手な三輪くんにほっこりする。

「私も食べてるよー。三輪くんほどじゃないけどね、美味しい?ほっぺたついてる」

あ、と三輪くんの声が上がる前にほっぺたについていたもんじゃのかすを取る。
みるみる赤くなった三輪くんは、わー!と言いながら女の子の様に両手で自分の頬を包んでしまった。

「ぼ、僕ももんじゃなんて初めてやって、お、美味しくてつい・・・」
「あーん子猫さんばっかりずるいですわぁ!蒼井さん俺のおべんとも取ってください!」
「志摩!やかましわ!」
「馬鹿ばっかり」

神木さんの溜息に雪男も苦笑まじりに同意しているようだった。
みんなが楽しそうでなによりである。

「蒼井さんは、なんや、こんなこと言ったら失礼かもしれませんけど・・・おかあさんみたいな人ですね」

それは小さな声だった。
それからはっとしたように三輪くんは口を噤み、すいませんと失敗した笑顔で私を見た。
もしかしたら、三輪くんはもうお母さんを亡くしているのかもしれない。
本能的な推測だった。

「別に、怒らないよ。子猫丸」

私の声に、三輪君は大きく眼を見開いた後、小さく、本当に小さく。

「ありがとうございます」

と切なげに笑った。


泣かなかった子供たちのために

20111220 tittle by IS