教室での騒ぎの罰はみんなで仲良く囀石の刑だった。 持ち上げようと抵抗すれば重くなる悪魔の石は、大人しく無抵抗であればそんなに重くならない。 案外それは知られていないのか、みんな苦悶の表情で震えていた。 連帯責任を言い渡す雪男に神木さんが辛辣にそれを拒否する。 それでも雪男は態度を変えることなく決然と言い放った。 「慣れあってもらわなければ困る。祓魔師はひとりでは戦えない!」 そうだ。騎士も致死節を知らなければ、手騎士も時間稼ぎがなければ、竜騎士も援護がなければ、詠唱騎士も囮がいなければ、医工騎士は決定打を持つ他の騎士がいなければ。 戦えない。悪魔を倒せない。それは強力な悪魔ほど、人間は協力や結束が必要になる。 私たちの個はあまりに弱い。 だから班を組んでの共闘は必須だった。 「・・・では僕は今から3時間ほど小さな任務で外します」 「え!?」 「僕が戻るまで3時間、みんなで仲良く頭を冷やしてください」 にっこり純情培養みたいな笑顔で出ていった雪男に全員の顔が青く血の気が引いた。 昨日の屍の件で寮内の出入り口の戸はすべて施錠、魔よけを施すのなら問題ないだろう。 しかし三時間か・・・。 「三時間・・・!鬼か・・・!?」 「もう限界や・・・お前とあの先生ほんまに血ィ繋ごうとるんか!?」 「ほ、本当はいい奴なんだ・・・きっとそうだ・・・」 「三時間か・・・ねぇ君、もう少し軽くならない?」 『ゴゴゴ・・・』 いかめしい顔の囀石の頭を撫でれば、なんとなく軽くなった気がしなくもなかった。 人心地つく間もなくまた勝呂くんと神木さんの言い合いが始まる。 勝呂くんはもしかして燐以上に問題児なのか。 こうも連続で事を荒立てられるとさすがに私もイライラしてしまう。 「そんなんやと周りの人間逃げてくえ」 私ははっと勝呂くんを見た。 そうだ、勝呂くんが怒っているのは自分のためじゃない。その子のために怒るのだ。 私の時の様に、勝呂くんは自分自身と相手の為に怒っている。 今だって、それは神木さんのことを心配している節が見え隠れしていた。 (いい男だなぁ) 本当に15歳か。驚くべきだ。 年上の人、そんな雰囲気に私は獅郎さんを思い出す。 金色の華奢な指輪。先生や生徒にさんざん嫌味を言われた、私と獅郎さんを繋ぐ最後の糸。 燐は似合ってると笑い、雪男は意味深だと苦笑い。勝呂くんは複雑そうにこの指輪を見た。 私が指輪を見下ろしていると、ふと突然部屋中の電気が消える。 「なに?」 騒ぎの中で囀石達が転がっていく。志摩くんが咄嗟にケータイを取り出しライトをつけた。 私もみんなもそれに続く。 「あ・・・あの先生電気まで消していきはったんか!?」 「さすがにそれはないと思う。雪男に限って・・・」 「停電・・・!?」 「いや、窓の外は明かりがついてる」 「どういうこと?」 「ブレーカーかな?一階奥の設備専用室にあるんだけど・・・」 だがこんな大きな寮全体を落とす程電気など使ってはいない。 ブレーカーが落ちたなんて考えられなかった。 「廊下出てみよ」 「志摩さん気ィつけてな」 「ふふふ、俺こういうハプニングわくわくする性質なんよ。リアル肝試し・・・」 木目の戸が重い音を立てて開かれる。暗闇の向こうにたたずむ悪魔の一瞥し、志摩くんは何事もなかったかのようにとを閉じた。 「なんやろ、目ェ悪なったんかな・・・」 「現実や現実!!」 勝呂くんの叫びと同時に悪魔の腕が戸を突き破ってきた。 昨日の屍だ。私たちは戸が塞がれて逃げることも出来ない。 「!? みんな下がって!!」 グールの頭部?が膨れ上がり、限界まで膨れると同時に体液を散らしてはじけ飛んだ。 体液は拡散された分大きな怪我にはならないが、小さく数の多い魔障が体力を奪っていった。 「ニーちゃん・・・!ウナウナくん出せる?」 「ニーッ!!」 しえみちゃんのお願いに緑男が前に出る。 その腹から太い枝が飛び出し、一種のバリケードの様に前方に茂った。 木の枝に体を貫かれ、分離したグールは一体は動かず、もう一体は諦めることなく外から必死に木の枝を破壊しようと暴れていた。 「すげぇ・・・」 「ありがとうニーちゃん!」 「しえみちゃん、そのままアロエも出せる!?みん魔障を受けてる」 かくいう私も右腕でかばってしまったせいで熱と痛みで上手く動かせない。 「ニーちゃん、どう?」 「ニー・・・」 フルフルと首を振る緑男の幼生。 どうやら一種類ずつした出せないのだ。まずい。 「なんだか、くらくらする・・・」 「しえみ!?え、みんなどうした?」 「さっき弾けた屍の体液を被ったせいだわ。あんた、平気なの!?」 呆然とする燐をよそにみんな息が荒い。 装備も不十分だから分が悪い。 「なんとか・・・杜山さんのおかげで助かったけど杜山さんの体力が尽きたらこの木のバリケードも消える。そうなったら最後や」 「燐、雪男に繋がった?」 「・・・駄目だ。雪男の携帯にも繋がらねー・・・!」 「すごい勢いでこっちに来てる!」 「屍は暗闇で活発化する悪魔やからな・・」 今なら倒せるか? 銃弾は3発。右手は負傷している。中級の屍を、この装備で倒すのは正直心許ない。 「獅郎さん・・・」 私は堪らず、指輪の縁をなぞって祈るように獅郎さんの名前を呟いていた。 嘯く者達の王国 20111020 tittle by ルナリア |