「おいアレ・・・完璧にパシられてんだろ・・・」
「や、きっとしえみちゃんにも何か考えが。うん、きっと・・・」
「え?」

合宿会場は我らが正十字学園男子寮(旧)だということは参加有無の用紙に記入されていたはずだけどどうやら燐は知らなかったらしい。
そうして塾生を待つ間言い放った燐の言葉に、私も思わず頭を抱えてしまったのだが。
最近のしえみちゃんは変だ。
まるで付き人の様に神木さんにべったりで荷物もちやら買い物をやらされている。
しかもしえみちゃんは文句も言わず笑顔なのだ。
今だって、

「ヤダなにココ気味悪〜い!もうちょっとマシなとこないの?あ、コレお願い」
「うん!」
「も、杜山さん!嫌なら嫌って言わないと・・・!」

朴さん、なんていい子なの。もっと言って!

「私、嫌じゃないよ!お友達の役に立ってるんだもん!」

私の横で燐が微妙な顔でそれを見つめている。
まさしく開いた口がふさがらないってやつか。

「はな姉さん、口開いてるよ?」
「え?やだ」

私も同じ顔をしていたらしい。恥ずかしい。

***

雪男のスパルタ授業は普段の5割増しくらいできつくて厳しい。
優等生の勝呂くんや神木さんをも悩ませるプリントだ。私もあまり自信ない。

「どうでした?はなさん」
「雪男・・・もうちょっと手加減してくれてもいいんじゃないかな」
「手加減なんてしてみんなが候補生試験に落ちたら困るからね」
「ううう・・・」

ふらふらと教室を出る燐とそれを見送る勝呂くん。
随分仲良くなったものだ。私の視線に気づいてか、勝呂くんは居心地悪げに視線をそむけた。耳が赤い。かわいい。若い。

「朴、お風呂入りにいこっ」
「うん・・・」
「お風呂!私も!」

きゃいきゃいと女子らしく可愛らしい声を立てながら出ていく三人。風呂場の場所はすでに伝えてあるし大丈夫だろう。

「うはは 女子風呂か〜ええな〜。こら覗いとかなあかんのやないんですかね」
「志摩!!お前仮にも坊主やろ!」
「また志摩さんの悪いクセや」
「そんなん言うて二人とも興味ある癖に〜」
「・・・一応ここに教師がいるのをお忘れなく」

志摩くんの間延びした声に勝呂くんの怒鳴り声と三輪くんの呆れ声。仲がいいな。そして若い。覗きとかすごい若いなぁ。
なんだか最近そればっかりかもしれない。もしかして、私老けこんできたのかな!?

「そいや蒼井さんはお風呂いかはりませんの?」
「うん?私ごはんの支度あるし」
「蒼井さんの手作りご飯!!いやぁ奥村先生のキツイ授業受けた甲斐ありますわ〜!」
「ほんま節操のない奴やで」
「そう言うて坊も楽しみな癖に」
「んなっ!!」

かっと赤くなった勝呂くん。
やばい、そんな反応少女漫画くらいでしか見たことないぞ。

「今日のごはん、かぼちゃの煮つけなんだけど。嫌いじゃないかな?」
「・・・おん」
「僕も好きですよ。はなさんのかぼちゃの煮つけ」

かすかな勝呂くんの声に重ねるように雪男がにこりと笑う。
その後ろで志摩くんが「先生食べたことありはるんですか詳しく!!」と叫んでいた。

「じゃあわたし食堂に行ってるし、下ごしらえはできてるし準備できたら電話するね」
「うん。楽しみにしてるよ」

ニッコリと笑う雪男の笑顔は不機嫌な時だ。君子危うきに近寄らず。
私は逃げるように部屋を出て食堂の厨房へと急いだ。下ごしらえもあるしウコバクに手伝ってもらえば早い。
それに、今日は男子高校生が5人以上だ。肉料理を追加しなければ。そうだ、豚の生姜焼きにしよう。たくさんつくろう。


みえないふりがじょうず

201110012 tittle by ルナリア