「しえみちゃん!!元気になったんだね!」
「うん!はなちゃん、心配してくれてありがとう!私もう大丈夫だよ!ごめんね、今まで・・・」
「ん〜〜〜〜かわいい!!」

わぁ!と赤くなるしえみちゃんを問答無用で抱きしめる。
杜山のおばあ様が亡くなって以来顔も見せてくれなかったしえみちゃんが塾に通うことになった。
本当に久しぶりだし、嬉しい。

「はなちゃんくるしいよ!」
「ごめん、しえみちゃんが元気になってくれたのが嬉しくて」

しえみちゃんの元気な姿に思わず口元がにやける。
燐が意外そうに私たちを見ていた。

「はなとしえみは友達だったのか」
「うん!はなちゃんは私の一番の友達なの!」
「うふふ、可愛いでしょ燐」
「なっなにいってんだ!」

赤くなる燐。やっぱり思春期だなぁ。
燐は獅郎さんに似てグラマラスな女性が好みだけど、好みと本能は違うものだ。
燐の場合、正義感が強いから本当はしえみちゃんみたいな守ってあげたくなる子がタイプなのはわかりきっていた。

「私も今日から塾生なの!よろしくね、はなちゃん!」
「うん、もちろん」

それから数日。
しえみちゃんも随分塾に慣れてきたみたい。昔の人見知りが嘘みたいに、毎日塾に通って先生たちに挨拶している。
しえみちゃん・・・なんていい子なのっ!
ただテストの解答にオリジナルの名前を書いちゃうくらいの天然さんだ。
学校に行ってなかったしえみちゃんならしょうがないが、その植物に関する知識は本物だ。

「すごい、はなちゃん80点!」
「しえみちゃんのおかげだよ。私薬学苦手なのに」
「私も次からがんばるね・・・」

肩を下げるしえみちゃんの頭を撫でて頑張ろうね!と笑うとしえみちゃんは頬を赤くする。
それからうん!と両手を握りしめて決意新たに鼻息を荒くする姿。
かわいいなぁ、女の子らしさを絵にかいたような女の子なのだ。
精神年齢20歳オーバーの私にはとてもできない芸当だ。

「なんやと!!俺はな祓魔師の資格を得るために本気で塾に勉強しに来たんや!!」

勝呂くんの大きな声にしえみちゃんの肩が跳ねた。
思わずそちらに目をやれば、勝呂くんが燐を言い合っている。

「塾におんのはみんな真面目に祓魔師目指してはる人だけや、お前みたいな意識の低い奴、目障りやから早よ出ていけ!!」
「俺だってこれでも一応目指してんだよ!」
「もう、勝呂くんったら」
「はなちゃん、あの人の友達・・・?」
「クラスメイトなの。根は真面目ないい子なんだけど」

喧々囂々と言い合う勝呂くんと燐と三輪くんと志摩くん、そして雪男に羽交い絞めにされてその場は仲裁された。
雪男の授業終了の合図に、勝呂くんたちは鼻息荒く教室から出ていってしまった。

「燐、」
「なっ、なんだよう」

むくれる燐の腕を引いて宥める。

「少なくとも、私と雪男は、燐が一生懸命祓魔師になることを目指してるのを知ってるわ」
「・・・」
「ほら、怖い顔おしまい。次は体育だよ」
「・・・おう」

塾校内中庭の噴水で雪男を見つけ、燐はさっそく勝呂くんのことを聞いているようだった。
それにしてもしえみちゃんの元気がない。
どうしたんだろう。どこか痛いのかな。

「しえみちゃん・・・?」
「はなちゃん、燐・・・私が塾にいるのって、やっぱりおかしいよね」
「どうして?」
「あー。お前祓魔師目指してるワケじゃないんだもんな。まーいーんじゃねーの?いろんな奴がいたって」

それは一理ある。
燐の隣で私は思わず黙々と頷いた。
祓魔師になるという選択肢だけじゃない。正十字騎士団に就職して、悪魔薬学者などの研究、発明、治療を専攻とした分野の人たちも存在する。
前線に立って戦うだけが祓魔師ではない。

「燐、お友達いる?」
「はぁ?」
「あ、あのね!燐・・・私と・・・!」
「おーおーおーイチャコライチャコラ・・・!」

グイッと身を乗り出して燐に何か伝えようとしたしえみちゃんの声を遮るように、チンピラよろしく登場した勝呂くんに思わず頭を抱えてしまう。

「そーゆーんじゃねーって!関係ねーんだよ!」
「じゃあなんや、お友達か?え?」
「と・・・友達じゃ・・・ねぇ!」

ほんのり耳を赤らめ視線を外す燐と、あからさまに驚いてそれから肩を落とすしえみちゃん。
しえみちゃんの言いたかったことも、燐の本音もこれは簡単にわかってしまう。若さって怖い。
そしてそれがわからないのが当人たちだけなのだ。

「テメェだっていっつも取り巻き連れやがって!身内ばっかで固まってんな!かっこ悪ぃーんだよ!!」
「ブフォ!?」
「笑うな!!」

どうしてこうも純粋さとは人を傷つけてしまうんだろう。

「燐も勝呂くんも、そこまで。授業に遅れるから早く体育館に。燐、早く着替えなさい。しえみちゃんは更衣室案内するからこっちね」

気にくわねぇ、と溢す燐の頭を軽く叩いてその場を離れる。
肩を落としたままのしえみちゃんに、後で燐に謝らせようと溜息を飲みこんだ。


花と獣

20110924 tittle by 不在証明