低く心地いい声にくすぐられて、目を見開けばそこは知らない天井だった。

「ん・・・?」

自宅でも学校でも友人宅でもない。
ゆるく目で辺りを探れば、涙を流して戦慄く中年女性と目が合う。

「はな!!!」

その人は勢いよく私に抱きついて、まるでうわ言のようによかった、と繰り返す。
真反対には小さな丸眼鏡をかけた黒い服を着た中年男性がいた。

「だれ?」

このふたりは。だれ?

問いかけを口にすれば、女性の方が驚いたように身を離した。

「はな?お母さんがわからないの?」
「は?お母さん?」
「ふ、藤本神父!!」
「お母さん、少し下がってください」

神父。なるほど、だから黒い服なのかと納得していれば、藤本神父と呼ばれた男の人が近づいた。私がいた場所はベッドだった。とても小さく、可愛らしいウサギのイラストがプリントされたシーツの上。

「『天にまします我らの父よ、願わくは御名を崇めさせ給え。御国を来たらせ給え』・・・効いてない?」

藤本神父とやらがなにか小難しい言葉を呟く間私は必死に部屋を見回した。
パステル調の家具に山ほどあるぬいぐるみ。
知らない女の人が私の名前を呼んで母親という。
私は17で大学受験を控えたどこにでもいる母子家庭の女子高生で、けれでも、でも。
私の趣味じゃない部屋にいる私は私の名前をした私じゃない。
手足は小さく短い、藤本神父の眼鏡に映る私は10年前の容貌をしていたからだ。

「あ、あの、こ、ここはどこなんですか?」

私はたまらず藤本神父の袖を掴む。
小枝のように細い指が震えている。
信じられないが、それば自分自身の感触だった。

「・・・可愛らしいお嬢さん。お名前聞いてもいいかな?」
「・・・はな。蒼井・・・はな」


コマドリは誰を殺したの

20110704 tittle by ルナリア