「おうはな、悪いんだけどちょと頼まれてくれねぇか?」
「はい?」

雪男と私は正十字学園に入学を控え、来週からは寮に入ることが決まった。
授業に必要な一式と、祓魔師としての装備。
荷は先に送ってあるので後は身一つで向かえばいい。
一週間後には燐と離れ離れになってしまう。
燐自身は気にしてはいないように振舞っているが、8年もずっと一緒にいたのだ。さびしくないわけがない。
私も、燐も、雪男も。
燐を残すことに雪男はひどく心配していたが、聖騎士である獅郎さんが傍にいるのだから大丈夫だろう。
それにしても、最近魍魎が増えてきている。
大きなものではないが祓魔師としての依頼が増えてきている。
小さな子供の心は繊細で、悪魔に隙を突かれやすい。今日もまた一件小さな依頼があった。

「頼みって?」
「ああ、さっきので四つ葉のクローバーのお守り切れちまってよー。この調子だともう少し必要だから用品店に受け取りに行って来て欲しいんだ。注文はしてあるし。ほい、鍵と代金」
「もう、予備は欠かさないようにっていつも言ってるじゃないですか。まったくしょうがないなぁ獅郎さんは・・・」
「ははは、すまんすまん」

鍵と代金の入った財布を受け取りながら私は苦笑まじりの溜息が零れる。

「本当に、獅郎さんは私がいないとだめなんだから」
「確かになー。はなのおかげで育児も家事も放棄しちまったし・・・。わ、悪いことしたな」
「いまさら謝っても意味ないじゃないですか。それに、別に苦じゃなかったですよ。獅郎さんと夫婦みたいで楽しかったし」
「馬鹿野郎、大人をからかうもんじゃねぇぞ」

冗談じゃないのに、と呟けば一瞬だけ獅郎さんの頬に朱が差した気がした。
雪男たちを育てた15年。浮いた話は聞かなかったし、そんな雰囲気もなかった。
私が獅郎さんに対する気持ちが恩義なのか家族としての思慕なのか恋愛感情なのかは定かではない。
ただ、私も今まで獅郎さんと同じように誰かと浮いた話はなかっただけだ。

「じゃあ行ってきますね」
「おう。今日の夜は雪男とはなの送迎会と燐の就職祝いするからは期待しておけよ!」
「燐、上手くいくといいですね・・・」
「・・・そうだな」

素直で優しい子に育ったが、粗野で乱暴な所が収まり悪い。
燐は高校には上がらず、就職の道を選んだ。
中卒での就職は難しいが、燐が選んだ道なら私たちは何も言えなかった。

「それとはな」
「はい?」
「もうすぐお前の誕生日だったろ。入学祝も兼ねてになっちまって悪いが」
「あーそんなのいま言わないでくださいよ!ネタバレ禁止!」

そうだな、と笑う獅郎さんに手を振って私は近くのドアに鍵を差す。
目の前を横切る魍魎を爪はじき、ドアを開いて用品店を目指した。

「今日は本当に、悪魔が多い日ね」

まるで、なにかを祝うように溢れ出ているのだから。


ネバーランド終焉

201108017 tittle by 発光