ダン!と音と共に紙型の頭部が吹き飛ぶ。
背後から上がる口笛に振り返れば、獅郎さんと雪男がいた。
雪男は近年まれに見るくらい間抜けにぽかんと口を開けている。

「随分上達したじゃねぇか」
「練習してますから」

ショットガンを下ろせば雪男は神父さん!と獅郎さんに詰め寄る。
説明はしていないらしい。
獅郎さんらしいというか。

「雪男、私も祓魔師訓練生になったんだよ」
「どうして!!」
「だって、私も雪男と燐を守りたいんだもん」

言えば絶句する雪男の瞳の奥で感情が揺らいでいた。
12歳。
大人びようが子供なのだ。
大人しく感情を隠せない瞳が剣呑に鋭くなった。

「はなは基本は詠唱師として訓練してるが、本人きっての希望でな」
「とっさに身を守れるくらいの力は欲しいもの。雪男には負けるけど、結構上手いでしょ?」

くるり、ショットガンを回転させ肩に担げば、雪男は恨むように獅郎さんを見る。

「はなさんには危険だよ」
「雪男にだって危険だわ」
「はなさんは女性で!」
「雪男なんか子供よ?」
「すぐに成長する!」
「私もね」

間髪入れる言葉の応酬に雪男は手のひらで目を覆い項垂れた。

「雪男。一人で戦わないで欲しいの。私だって、力になれるんだよ?一人で背負おうとしないで・・・」

雪男の指先は、皮が厚く、固くささくれている。
5年の歳月が刻まれた指先が、戦いを知る指先が。
それはあまりに痛々しい。
雪男は、たった12歳の少年なのだ。
絡めるように手を握れば、泣き出す瞳と視線がぶつかった。

「はな姉さんは普通に生きれたのに・・・」
「家族は一蓮托生よ」

笑えば、雪男も呆れたように、でも嬉しそうにつられて笑った。
納得するように、そっと握り返す手に力がこもる。

「雪男。時間があるときははなの射撃訓練を付き合ってやれ。じきに祓魔師にあがるだろうからな」
「神父さん!」
「だぁいじょうぶだって!可愛い娘に危険な任務に行かせる気はねぇから」

けらけらと笑う獅郎さん。だが嘘をついた。
獅郎さんはすでに何度か私を任務につれている。
危険な悪魔というものを、ある程度思い知らされたが私の信念は揺らいでいない。

「雪男、私強くなるね。すぐに雪男の手伝いも出来るようになるからね」

私や燐や獅郎さんのことばかりの優しい雪男。
だから、私は雪男の荷を一緒に背負いたかった。

雪男は柔らかく笑う。

「でも、はな姉さんの手のひらが固くなっちゃうのは嫌だなぁ」
「ふふ、気を付ける」

指先からにじむ熱に、私は少しだけ声を出して笑った。
雪男と、獅郎さんの優しい微笑みが、私の心に薪をくべる。

守りたい。

大切な人を、守りたいって。


それが君の優しさだと知っていた

201108017 tittle by 発光