「調子乗ってんじゃねーよブス」

すれ違いざまに肩を当てられ低い声で告げられる。
衝撃に少しよろければ、女子集団はきゃらきゃらと笑いながら廊下を曲がって消えていった。
呪ってやろうかと思うよりも、あまりの若さと青さに言葉もない。

「うわ、女子こわ。蒼井さん大丈夫です?」

ちょうどその現場を目撃したらしい志摩くんが、相変わらずの緩い笑みを浮かべたまま近づいてきた。

「ん、へーきだよ。いつものことだし」
「え、いつものことなんです?」
「え?うん」

一度勝呂くんが説教して以来閉じ込められたりものを隠されたりということはない。
ほとんど通り魔的に暴言を吐かれるだけだ。特に痛いくも痒くもないので放置しているが。

「えぇ〜?ほんま大丈夫なんですか?蒼井さんになんかあったら俺坊に申し訳ないですわぁ」
「なんで?」
「なんでって。だって蒼井さん坊の彼女ですやん?」

不思議そうに目を丸くする志摩くん。
勝呂くんはどんな風に説明したんだろう。
最初は純粋に助けてくれて、それを虫よけ程度に利用したのが私だ。あまりいい話ではないから伏せているのかもしれない。

「うーん、でもほら、あんまり彼女らしいことしてないし?」

なんだかんだで一緒にいる時間は任務以外はほとんどない。たまに移動教室や実習時間に一緒にいるくらいで、同世代の恋人と言うものに比べればずいぶん味気が無いだろう。

「でも蒼井さん坊の事大事にしてますやん」
「んん?」
「あれ、あんまり自覚なかったん?」

にいやり。と意地悪く笑みを深くする志摩くん。

「奥村くんやせんせとおる時と、笑顔の感じが違いますもん」
「そう、かな」
「そうですって」

自信ありげにそう言う志摩くん。そんなつもりはないのだが、そうなのだろうか。
たしかに塾の仲間とし大切に思っている。けれど、やっぱり優先するのは燐や雪男だと思う。

「ぐふ、やっぱ坊にもワンチャンありですよこれ」
「わんちゃん?犬の話?」
「いやいや、では俺はこのへんで〜」

そういうと軽い身のこなして去っていく志摩くん。まるで忍者のように人の多い廊下もすいすい泳ぐように歩いていったのだった。

「あ、はなちゃん!」
「あ、朴ちゃん」

こっちに手を振りよってくる朴ちゃんの後ろにはしえみちゃんが居る。どうやら同じクラスだったらしく、これから出雲ちゃんと一緒にお昼ということなのでお邪魔することにした。


***


「ちょっと、なんで高校にいるのよ。杜山しえみ」
「出雲ちゃん知らないの〜?おっくれてる〜。しえみちゃん今日から中途入学だよ?」
「ああそう。とりあえず一発殴らせなさいよ蒼井」
「下の名前で呼ぶならどうぞ」

そんな風に軽口を叩きあい、近くの机を集めてテーブルを作る。私と出雲ちゃんの様子にしえみちゃんは目をキラキラと輝かせていた。

「すごい!はなちゃん、神木さんと仲良し!」
「ほんとだ〜。出雲ったら気難しい子なのに」
「朴!」

会話は進み、まるで4人はずっと昔からの友達のように話が弾む。
そうして何度か話題が代わり、お題目は今一番の大目玉、学園祭の話に到着した。

「学園祭…へぇええ!楽しそう!行きたいっ!」
「でも男女ペアでの参加が条件なんだー」
「男女ペア…はなちゃんは?」
「私はパス。一応先生方と一緒にスタッフ側で参加だけど。ちなみに出雲ちゃんもパスだって。もったいない」
「あたしは遊んでばかりいられないのよ」

つんとすましてパンの包み紙を丸める出雲ちゃん。そうこうしているうちに、燐が教室へと飛び込んできた。


マシマロの丘

20170311 tittle by まほら