放課後は勝呂くんと一緒に教室を出て燐や出雲ちゃん達と合流する。
本日の七不思議は肖像画の間の「自分の死に顔の肖像画」である。死に顔というが、見るたびに違う顔が描かれているらしいので厳密には死に顔ではないようだ。

「それはそうと遅いですね。奥村先生」

三輪くんがケータイで時間を確認しながら呟けば、突如後方から軽い爆発音がして全員が一斉に振り返った。

「私は常に神出鬼没を心がけていますのでね」

語尾にハートが付きそうなほど甘ったるい声に、出雲ちゃんが悲鳴を上げて飛びあがる。転びそうな出雲ちゃんの肩を支えれば、メフィストさんは明るく「奥村先生が急遽ヴァチカンに召喚されてしまいましたので、今日は私が代理で皆さんを見守ります」と言ってのけた。

「確か残るのはこの肖像画の間の七不思議だけでしたね」
「メフィストさん。あと三つ残ってますけど」
「おや?…ああ!七番目の「絶対に辿りつけない屋敷」。これは祓魔屋のことです。よって無害なので外します。あと六番目の「蒐集鬼部屋」。これも私の大切なイタズ…ゴホッゲフッ…コレクションの一つなので外します」

どうやってもごまかしきれていないメフィストさんの発言に私含め一同全員なんとも言えない顔になってしまった。
そりゃあ正十字学園町全体がメフィストさんの根城かもしれないけど、祓魔師以外の一般生徒も居る学園内にそんな恐ろしい物を作らないで欲しい。

「---というわけで、残る七不思議はこの肖像画です!この肖像画は「家族の肖像」といい、私のイタズ…ゴフッゲフッ…コレクションのひとそろいだったのですが。最近子の絵を見た生徒が心を病むケースが続出していましてね。これほど危険な存在になってしまっては祓魔も致し方ありません。さて、日も落ちて生徒も皆帰寮した頃です。はじめましょう」

パチンと指を鳴らしたメフィストさんの姿はピンクの煙幕を残して掻き消えた。と思えば別の場所に移動して、携帯ゲームを片手にここで見守っています。と職務怠慢を隠さない態度でこちらも見ずに言ったのだった。

「まずは敵の分析やな。…というかあの絵、俺には「家族の肖像」には見えへんのやけど。みんなにはどう見える?」
「陰鬱そうな女性の姿絵、だね」
「女の絵だろ?確かにどこが家族なんだ?」
「わ…私も…」
「僕も女性一人ですね」

じゃあ俺もそれで!と呑気な発言をした志摩くんと畳み掛ける出雲ちゃんの不審げな態度に勝呂くんが怒鳴りだす。
燐は燐でとりあえず切っちゃえば話が早くねーか!?と言って勝呂くんに呆れられた。私もとりあえず散弾銃撃ちこむか燃やしちゃえば早くない?と思ったが言わなくてよかった…。
そんな中燐が倶利伽羅を抜いて駆け出す。
それとほぼ同時だった。
あちこちの絵画からインクが滴り落ち、こぼれ落ちて床を汚した場所から悪魔が形どられる。
暗色を混ぜあわせたグロテスクな体表に細い枝のような手足。ざわざわと、音を立てて一瞬にして四方八方を埋め尽くした。

「全員円陣で集まって!!」

勝呂くん、志摩くん、出雲ちゃんは素早く反応したが、すぐに目を合わせてしまったようで動けないでいる。その動かない体に向かって悪魔たちが顔面めがけて飛びかかる。
しえみちゃんはすでに顔色が悪い。あまりにも早過ぎる敵の動きに周囲を助ける余裕もない。
何が最適か。考えるまもなく私は目を閉じて喉を震わせていた。

「『聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな 全能の神なる主』!」

節を読むのではなく音階をつけて賛美歌を歌う。簡易な結界に一定距離から悪魔の侵入を阻むが、歌っていればそれ以上のことはできない。どうやって全員に取り付こうとする悪魔を祓うか。銃弾など危険すぎて使えない。それでも体はすでに馴染んだ動きをトレースし、太もものガンホルダーから銃身を取り出し構えていた。

「蒼井さん!子猫丸です。手を引いて誘導します。すいませんが賛美歌を続けてください!」

乱暴ではないが、急いだ風に右手を引かれる。大人しくその指示に従い歌を続ければ、ひとり、ふたりと三輪くんの呼び声の次に気配が集まってくる。

「奥村くん!こっちや!早くあの結界の中へ!」

そして燐で全員だろう。
全員集まったが、この状況。はっきり言って手も足も出ないんじゃないだろうか?と繰り返し歌う私は初手を誤ったことに深く反省するのだった。


途切れたワルツ

20160807 tittle by 金星