「ノア・ハウス」エピローグ
彼はドアの前に立って、一度深く呼吸をする。
昼の強くてサラサラした光が降り注ぐ、蔦はうビルは何も変わっていないように見える。
だけどそんなことはないのを彼は知っているし、彼だって、かなり変化を経ている。
でもここは――――――――
ポケットから鍵を取り出して、ドアをまわす。
白く塗られた廊下には大きな窓、それはいっぱいに開けられて、外の爽やかな空気と光を導いている。
「ここなの?あなたの大事な場所って」
隣に立つ彼女が微笑んだ。彼は頷いて、ゆっくりと見回した。
その時ぱたぱたと足音がして、黒い頭が廊下から現れる。そして、あ、という声。
「おー!まさかまさか、これは!」
そうはしゃいだ声を出した本人は、後ろを振り返って、大きな声で叫んだ。
「おーい!ノアが帰ってきたぞーっ!」
帰ってきた、その単語にハッとする。きたぞ、じゃなくて・・・帰ってきた、そう言って貰えるのか。そう彼は思って、つい口元をほころばせる。
きゃーきゃーと騒がしい声が聞こえて、次々と現れる人々に、隣に立つ彼女も楽しそうに笑う。
彼は、彼女の手を取って言った。
「ようこそ、ノア・ハウスへ」
「ノア・ハウス」終わり
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