おまけ。まりmeets薫。



「あ」

「・・・・あ」

「あーっ!!桑谷さーん!!」

「あら、滝本さん。お久しぶりです」

 今日も晴天の真夏日、昼下がりの繁華街で、まさかまさかの遭遇をした。しかも、お互い相方連れで。

 確率にしたら宝くじが当たるより低いに違いない、そう、二人の男は瞬間的に思った。そしてこれまた同時に顔を顰め、回避の姿勢を取った。

「――――・・・こんにちは、野口さん。あー・・・また、今度」

「久しぶりですね、まりさん。お元気そうで何より。急ぐので失礼」

 男二人はほぼ同時にそう口にして、回れ右をしてそれぞれの女の腕を引っ張る。男同士は相手に視線すら投げなかった。まりは桑谷の顔をちらりと見ると、顔を向けて滝本の連れる女の子を振り返った。そして瞳を煌かせて微笑む。

「野口さん?お話に聞いてます。私は桑谷の妻で、まりと言います」

「はい、まりさん!噂のまりさん!会いたかったんです〜!うれしーい!!」

 薫にいたっては完全に体をまりへ向けてケラケラと笑う。既に歩き出そうとしている滝本がガッシリと腕を掴んでいるのをアッサリ無視していた。

「・・・薫、行くぞ、遅れる」

「うるさいわね、ケチ。5分やそこら大丈夫だっつーの」

 ぐいぐい引っ張る滝本の手をぴしゃりと叩いて薫はまりに笑顔を向ける。ショートカットの黒髪にはキラリとところどころ茶髪が光る。スッキリとした体に小さな顔が乗っていて、その表情は好奇心に溢れ、元気が破裂したような彼女だ、とまりは思った。成る程、この子なら滝本のことも対等にあしらえるだろう――――――

 薫もまりを見て、一人で納得していた。わお、綺麗な人。この人の目は、何て表現したらいいんだろう。潤っていて、柔らかい光があるのにじっと見られると自分が捉えられて溶け出しそうだ。この人の言うことなら桑谷さんが聞いちゃうの、判るような気がするわ〜!何せ、ベタ惚れらしいし。強さを瞳で儚さを佇まいで、同時に醸し出している女の人だ。

「野口薫です!桑谷さんにはいつもお世話になってます!まりさん、是非今度一緒に―――――」

 弾んだ声で薫が話すのを、野郎二人が一刀両断した。

「「駄目」」

 は?そう叫んで薫は滝本を振り返る。図らずも滝本とハモってしまったのを居心地悪く感じながら、桑谷はまりの体を引き寄せた。

「ほら、雅の迎えの時間だ」

 まりはまたちらりと桑谷を見上げると、にやりと口元をほころばせた。

「もうお迎えに行くの?なら二人で買い物はなしにするのね?」

 ぐっと詰まる桑谷を見て、嬉しそうに薫が爆笑している。その後ろで滝本が眼鏡の奥の瞳を細めて冷然とかつての相棒を睨んでいた。

 ―――――マヌケ。

 そう言ってやがるに違いない、桑谷は思わず眉間に皺を寄せて舌打をする。

 どんどん不機嫌になる男二人をほったらかしで、彼女達は笑顔で言葉を交わす。

「お茶しましょう。連絡先教えて下さる?」

 まりが言うのに、薫がはーい、と右手を挙げる。

 近づこうとする薫を、今度は腰から引っつかんで、滝本が歩き出した。

「また今度だ。連絡先は彰人が知ってるんだろう?」

「え?だって今交換するのが早いし――――」

「行くぞ。では、失礼」

 片方でも同じことが起きている。

「彼女の携帯は俺が知ってる。さっさと買い物済ませようぜ。―――野口さん、じゃあまた!」

「・・・本当に知ってるの?」

「知ってる知ってる」

 ぐいぐいとまりの手を引いて桑谷は進む。パッと顔を向けて、同じように振り返った薫とまりは視線を合わせた。

 薫がぺろりと舌を出す。それに笑顔で応えてまりはひらりと手を振った。


 ――――――絶対に・・・

 女は二人とも企んだ微笑で前を向く。


 ・・・絶対に、お茶してやるんだから。


 無理やり引き離したあと、男共はそれぞれが後悔していた。・・・あそこで見張りの元、思う存分話しをさせた方が被害は少なかったかもしれない、と考えて。

 だけど、桑谷がまりに詰め寄られるだけで物事は済んだのだ。

 なぜなら、桑谷は薫の携帯番号など知らなかったし、調べようともしなかったからである。そしてそれに関しては、いかにまりが脅そうとも桑谷は首を縦に振らなかった。



 おまけ。終わり。

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