クロッカス
「春草?」
鴎外さん?
部屋で大きな物音が聞こえ盗人でも現れたのかと駆けつければ、掠れたような声で僕の事を呼ぶ春草の部屋は散らかっていた。窓は割られ、筆などは折れていて
足元には「彼女」が描かれた絵が破かれていた
「春草、何をしているんだい?」
1歩部屋に入ろうとすると春草は近くにあった物を僕に投げつけた
「春草…」
「……………。すみません、出て行ってくれませんか」
顔を両手で覆いしゃがみこんだ春草にわかったと一言言い。扉を閉めた。
めい、めい。震えた声で彼女の名を呼ぶ春草
先程の彼を見た限りじゃ、医者として、すぐに彼を「治療」すべき状態だ
だがしかし、僕はそれをしなかった。残酷だとは思う
けれど、彼の目はもう戻ることはないのだ
「めい……」
「僕もどうしたものか…」
彼女がいなくなってからというもの、僕も春草もこのありまさだ
「帰ってきてくれと言って子リスちゃんが帰ってきてくれる訳じゃないのだがね」
扉にもたれかかりながら、頭を悩ませる
「はぁ…帰ってきてはくれないかい?」
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