でんわ
船に乗って一日掛けてシンオウ地方に向かう。
現在、船で夜を明かしたところだ。
昨日、乗船しているトレーナーから勝負を挑まれたが、ポケモン達は置いてきたので勝負は出来ない。
…何故勝負に誘われてたのかと言うと、私のベルトに反応していたらしい。
私の腰に巻いてあるベルトはモンスターボールを着けられるようになっている。恐らくこれの所為だ。
何度「今ポケモン持ってないんです」と言ったことか。
その度に証明しなければならなかったので、自分に割り当てられた部屋の中で引きこもって過ごしていた。
「……また電話だ」
私はため息をつきながらポケギアを開く。
電話を掛けてきた人物は見なくても分かる。
何故なら同じ人物からずっとかかってきているからだ。
「……はい」
『出るの遅い』
「一体何回掛ければ気が済むの……」
『だって心配なんだもん』
ポケギアから聞こえてきた声はレッドだ。
昨日、10分置きに電話がかかってきてたのだ。
その時間をお母さんに当ててあげてよ……。
「……と言うより、レッド」
『何』
「ずっと思ってたんだけど、今どこにいるの?」
何故そう尋ねたのかと言うと、ポケギアからレッドの声と風の音が聞こえるからだ。
まるで吹雪の中に居るような音がずっと聞こえるのだ。
『山』
「山?」
カントー地方で山と言えばお月見山くらいしかないけど……。
私もお月見山に行ったことがある。
そこでピッピが踊っているのをレッドと一緒に目撃したのだが、意外にも人がいて「カップル!?」と言われた。
私は必死に違うと否定したのだが、レッドが何も言わないので信じて貰えなかったんだよねぇ……。
今では良い思い出である。
しかし、ポケギア越しから聞こえるこの音は、どう聞いてもお月見山であるわけがない。
あそこはそんなに激しい風は吹いていなかったはずだ。
「……お月見山、ではないよね?」
『違う』
「じゃあ何処の山?カントー地方に山と言ったらお月見山くらいしかないはず…」
『シロガネ山』
「どこよ、そこ」
『シロガネ山は、22番道路からゲートに入って、まっすぐ行った所にある山。区分はジョウト地方になる……かな』
「へ、へぇ……」
レッドが珍しく長く喋っていることに少し驚く。
『大体、そこにいる。だから、その……偶に来てくれると嬉しい』
「行く機会があれば行くよ」
『うん。……待ってる』
レッドと通話が終わったと同時に、シンオウ地方に到着したというアナウンスが流れた。
2021/08/11
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