対 秋葉名戸学園
「これ、いらないんだけど……!」
「何貰ったんだ?」
「何か良く分からない事つらつら言って…、人の話聞けっての」
僕が持っているものを見て、風丸さんがそう言った。
何を持っているのかと言うと、先程あのオタク集団から押しつけられた衣装だ。
どうやらアニメのキャラクターが着ている衣装らしく、限定品やらどうとかとか言われたけど正直どうでもいい。
「あ、風丸さんいる?似合うかもよ?」
「いるかそんなもの」
冗談で風丸さんに尋ねたら、冷たい声でそう返された。
あ、そうだ。
ならオタクだってさっき判明した目金さんにあげよう。
「じゃあ目金さん、これあげる」
「良いんですか!!!?」
「持ってても着ないし、どうせ捨てるか燃やすかだし、いるなら持ってってよ」
「是非!!!!」
凄く嬉しそうな目金さんに、貰った(と書いて、押しつけられたと読む)物を渡す。
「はぁ……サッカーしてこのイライラを晴らそう」
「ははは…」
僕の発言に半田さんが乾いた笑いを漏らしていた。
***
河川敷に着いたときには夕方になっていた。
円堂さんを中心に、2年生は秋葉名戸学園との試合の作戦会議、その他の人は練習である。
さっきから染岡さんの怒鳴り声がうるさい。
「おい苗字!お前も練習に参加しろ!!」
「えー、ちゃんと練習してるじゃーん」
まあボールで遊んでただけだけど。
しかし、久しぶりにこんな広いところでサッカーできるって言うのに。
「…」
円堂さんは染岡さんを除く2年生の人達と集まってずーっと話し合ってる。
あの人の教え方、まあ理解出来なくはないけど……なんかつまんなーい。
「…そうだ」
ヘディングしていたボールを足に乗せる。
チラリと円堂さんがいる方を見る。
「おい苗字!聞いてんのか………って、円堂ッ!!」
染岡さんが僕を呼ぶ声が聞こえた時には、ボールを蹴っていた。
僕が蹴ったボールの先には円堂さん含む二年の先輩方。
その中でも一番の狙いは___この部唯一のGK、円堂さんだ。
「え?おわッ!!?」
染岡さんが呼んだことで、自身に迫ってきているボールに気付いた円堂さん。
間一髪でそのボールに触れたが、ボールの威力は落ちることなく円堂さんの手から弾き飛んでいった。
そのボールは僕の方へと、とんぼ返りしてきた。
それを胸でトラップし、片足で押さえる。
……全部計算通り、ってね。
「今ボールを蹴ったのは……?」
「僕だよ」
腰に手を当て胸を張りながら答えた。
「お前、すっっげぇシュート打つんだな!!」
「当然。伊達に異名つけられてないからね〜」
興奮したように近づいて来た円堂さんに、僕はそう言った。
まぁ〜?僕の実力はこんなものじゃないし?まだ序のうちだし??
「それなら、必殺技はもっとすげーんだろうな!」
「もっと褒めてくれて良いんだよ?」
「円堂……お前、べた褒めだな…」
人間褒めれば伸びるんだよ、風丸さん?知ってた?
目の前でキラキラと僕を見る円堂さんと、苦笑いしながら僕を見つめる風丸さん。
「あ、そうだ。苗字、希望のポジションはあるか?」
「GK以外なら何処でも良いけど、基本MFだったよ」
「そうか!ならMFを頼む!」
円堂さんからMFに着くように任された。
……いいね、久しぶりに広い場所を走るにはもってこいのポジションだよ。
「相手は不満だけど…、まあ、フットボールフロンティアにちょっと出られるんだ。不満なんて言える立場じゃないんだから。……僕は」
去って行く円堂さんの背中を見ていた僕の独り言は、誰にも拾われる事はなかった。
2021/02/19
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