対 御影専農中



「あれ、見学?」


僕の存在に気付いたのか、キャプテンさんがこちらを見る。
春奈が僕の代わりに「そうなんです〜」と答えた。
視線があったので、とりあえず微笑んで頷いておいた。
……どうやらあの日、雷雷軒で会ったというのに、僕と言うことに気付いてないようだ。

今はシュート練習の途中のようで、一人一人シュートを打っていた。
…うーん、豪炎寺修也とあの11番さんが良いって所かなぁ。まあそうか、2人ともFWだし。
そう思いながら見ていると、


「…あ」


他校の生徒が河川敷に降りてきたのだ。
キャプテンさんもそれに気付いて、練習を一時中断。


「あの人達は?」

「次の対戦相手の、御影専農って学校の生徒よ」


横でカメラを取っていた春奈が教えてくれた。
へぇ、次の対戦校か。


「…なんか、人間味がないな」


キャプテンさんと話している御影専農の人達の会話を聞いていて、思ったことが口にでた。
『解析』やら『評価』とか…ロボットかよ。


「我々には100%勝てない」

「勝負はやってみなくちゃ分からないだろ?」


春奈がいうには、今キャプテンさんが目を合わせているのが御影専農サッカー部のキャプテンさんで、隣の人はエースストライカーらしい。名前も言っていたけど、興味がなかったので覚えていない。
と、のん気な事を思っていると、


「勝負?____これは『害虫駆除作業』だ」


御影専農のエースストライカーの人が言った言葉が、頭に響いた。
周りから「害虫駆除って何だよ!!」や「むかつく!」「酷い!」などの声があがっているが、僕は別の事で頭がいっぱいだった。


「がい…ちゅう……っ」


頭が痛みだして、少しふらついてきた。
手で頭を抑えて、何とか気を保つ。


『____邪魔!!』

『女子がサッカーなんて、出来るわけないだろっ!』


頭に流れるのは思い出したくも無い昔の記憶。
…っ、違う。そんな分けない…っ。
聞こえてくる笑い声を振り払おうと、首を振る。


「___、名前!!」

「ッ!!」


肩を掴まれ、我に返る。
目の前にいたのは春奈で、心配そうな顔をしている。


「大丈夫?具合悪い?」

「……いや」

「顔真っ青よ?ほら、ベンチに座って」


春奈に連れられてベンチに座る。
隣に春奈も座って、目の前の光景を見始めた。

大丈夫、大丈夫さ。
もう僕は弱くない。あんな奴ら、見返せる程に強くなったんだ……!。


『名前はサッカー上手だね』

『なら、強くなって見返せばいい』

『一緒にサッカーをしてくれる人がいない?……大丈夫、名前の強さを理解してくれる人を探せばいいのさ』

『___それなら、俺がいなくても寂しくないだろ?』


そうさ。
今は僕の実力を認めてくれて、そして同じレベルの仲間がいる。
僕を信用してくれている仲間がいる。
だから、寂しくないよ。
寂しく…


「………やっぱり、寂しいよ。兄さん」

「?何か言った、名前?」

「あっ、いや……何でもないよ」

「そう?家まで送ろうか?」

「ううん、大丈夫」


心配してくれる春奈の言葉に、僕は大丈夫だと答え続けた。





2021/02/18


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