対 野生中
「ねぇ名前!!土曜日にあった試合、見に来た!?」
教室に入って、携帯を弄っていると春奈が近づいて来た。
「うん。4-3で勝ってたね」
「結果を知ってるって事は見に来てた事は間違いなさそうね」
僕、信用されてないのか……?
そんな僕の心情を知らずに春奈は話を続ける。
「試合の日、名前を探したけど見当たらなかったわ」
「あー、私服で来てたからねー」
「は!?普通制服でしょ!?」
「だってー、ばーちゃんが洗濯してたんだもん」
…まあ、洗濯物に出しておいて、って言われてて出してなかった僕が悪いけど。
何てことを思いながら春奈を見つめる。
「……………なら、仕方ないわね」
「ちょっと、間。間が長い」
「でも、貴女は雷門中の生徒なんだから、普通は制服で来なきゃだめよ?」
「………えー」
「えー、じゃない!!」
別に着てきたい奴だけ着てくれば良いじゃないか。
休日なんだし、練習試合見に来ただけで校内に入る訳じゃないんだし。
「あ、そうだわ!雷門中、フットボールフロンティアに出ることになったの!!」
春奈が笑顔で放った言葉に危うく吹き出しそうになった。
……フットボールフロンティアだって?
「ふ、フットボールフロンティアって…な、何?」
「ああ、そっか。名前は知らないわよね。フットボールフロンティアって言うのは…」
何ですかそれ、というような反応で返した僕に、春奈がフットボールフロンティアについて説明を始める。
どうやら、ぎこちなかった返事には気付かなかったようだ。
…ごめん春奈。
僕、フットボールフロンティア知ってるよ。
笑顔で嬉しそうに説明してくれている春奈を見て、必死に知らない振りをするのが申し訳なかった。
「へ、へえ〜。じゃあ、サッカー部は何処と試合するの?」
「今日には分かるんじゃないかしら!」
僕の質問にそう言うと、「あ、応援に来る?」と誘われた。
どうやら興味を持ったように受け取ったらしい。
「うーん…。ま、暇だったらね」
春奈にそう言って、腕の中に顔を埋めた。
もうすぐ次の授業が始まるからか春奈は「考えといてね〜」と言って自分の席へ戻っていった。
「…FF、か」
そう言った僕の声は、誰にも拾われる事無く消えていった。
2021/01/17
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