微かな光が光輝になるまで
『真太郎よくやった!!』
『すごいすごい!』
『いいシュートだった』
全員が真太郎の元へ駆け寄って行き、それぞれ言葉を掛けていく。真太郎はその言葉に困惑していたな〜。
普段、真太郎に怯えてあまり話さないチームメイトも駆け寄って、真太郎に言葉をかけている。それもあって、困惑していたのかな?
DFとしての動きを身に付けたい、という本人の希望から、関わる事が多かったのは僕、空、亜久、そして兄さんの4人だった。偶に剛兄さんがいたっけ。
『かっこよかったよ!真太郎!』
僕も何か言った方がいいだろう。そう思った当時の僕は、真太郎へ思った事をありのまま伝えた。
『ぅえ!? あ、ありがと……』
僕が真太郎に向けて褒め言葉をかけたら、何故が顔を真っ赤にしてぼそりとお礼の言葉を言った。
僕の予想では『別に』って返ってきそうだったのに。意外に可愛いとこあるじゃん。
……流石に当時は、ここまで思っていなかったよ?
『真太郎君は照れているんだよ』
『そ、そっか……』
『お、おい剛兄!!』
隣にいた剛兄さんがそう教えてくれたから、漸く真太郎が照れていたことに気づいたんだ。何故か真太郎は焦ってたけど。
『……どういうこと、真太郎』
賑やかな雰囲気の中、聞こえた声は怒りを含んでいた。その声の主はそうたくんだった。
そうたくんはこちらに近付くと、真太郎に声を掛けた。真太郎はそうた君を見ると、如何にも悪そうな顔を浮べた。
『ふふん、知りたいか?』
それはもう本当に、意地の悪い顔で。それを見ているそうた君の顔は本当に悔しそうだった。
『……し、知りたい』
悩んだ末、そうた君は悔しそうな声音でそう言った。
今だから思うけど、きっと折れた結果に真太郎が強くなった事が一番に気になったから何だと思う。
『しかたねーな、教えてやる。俺、ここのチームに入って、練習に参加させてもらっているんだ。そのお陰でお前を超えることが出来た』
そう話す真太郎を、そうた君は無表情でじっと見つめていた。そうた君は何を思って真太郎を見ていたんだろう?
『俺、颯太く勝つ為に、ここで頑張ったんだ。名前や空、亜久……そして、悠さん。影から応援してくれたチームメイトのおかげで、やる気を保つ事ができた』
『僕に、勝つ為に……』
真太郎が告げた言葉の一部……自分に勝つ為に練習を頑張った。その部分がそうた君の中では一番印象に残ったみたい。
そう呟いたそうた君の表情が、それを物語っていた。
『っ、……っ!!』
段々と無表情が崩れていく。唇を強く噛んで、顔を下に向ける。誰がどう見ても、そうた君は悔しいという気持ちを顕にしていた。
『こらこら、そんなに口を噛んだら血が出ちゃうよ?』
そんなそうた君に声を掛けたのは兄さんだった。
僕はその声が聞こえるまで、兄さんがそうた君の元に行っていたことに気づかなかった。一体、いつの間に……。
『俺のコーチ、悠さんだ!』
そして、一体いつ兄さんが真太郎専用のコーチになったんだ!
真太郎の言葉を聞いたとき、幼い僕はそんな感じの事を思ってたなぁ。
『兄さんは、みんなのコーチだ!』
『そーだ、そーだー!』
僕は割と怒った口調でそう言ったんだけど、空はなんか楽しそうだったなぁ……。何故。
『コーチ……。あなたのおかげで真太郎は強くなった。そうなの?』
そうた君は兄さんにそう問いかけた。
動揺の書く仕切れていない、そんな口調で。
『確かに俺は真太郎にコツや、変な癖、直すべき部分を教えた。けど、それだけじゃ強くはならない。真太郎は俺のアドバイスは勿論、このチームメイトの支えがあって強くなった。俺一人の力じゃない』
兄さんはそうた君にそう言った後、僕に視線を向けた。目が合うと、兄さんはこちらにウィンクをした。うぅ、様になってる……けど、なんで急にウィンク?
『……だったら。だったら、僕にも教えて』
そう思っていたときだ。
そうた君が兄さんへそう言ったのは。
……この流れと、突然兄さんが目を合わせたこと。それで僕は察しが着いた。何故なら一度見た流れだからだ。
『じゃ、じゃあ僕達と一緒にサッカーやろうっ』
『え?』
突然別の人が声を掛けたんだ。そうた君が驚くのも無理はない。
けど、兄さんは言ってた。このチームを作る理由に、僕の人間不信を直すこともはいっている事を。
チームメイトを誘うのは、強制的にだけどこのチームのキャプテンとしてやるべきだよね?
『真太郎は僕達と一緒にサッカーをやって強くなった。君を超えた。……君も入れば、強くなれるよ』
言った。言い切った!!
頑張って目を合わせる努力はしたけど、所々我慢が出来なくて目を逸らしちゃった……。
僕の感想はどうでもよくて……そうた君は、どんな返答をする?
ただそれを待った。
『……分かった。こいつに負けたくないし、強くなれるなら喜んで入るよ』
『はぁ!? おい名前、なんでこいつを誘うんだよ!!』
『サッカーは多い方が楽しいじゃん』
『だってさ、真太郎』
『ぐぬぬ……ふんっ、まあいいさ。お前が入るんだったら、お前は一番下ってこと。つまり、俺の方が上手いわけだ! そう簡単に追い越せると思うなよ?』
『そっちこそ。余裕こいてたら、すぐ追い抜くからね』
いつの間にか二人での言い争いになったけど……そうた君が加入したって事でいいんだよね?
『えっと、入るって事で良いの?』
『あ、ごめん。真太郎がうるさいから話が切れたね。うん、チームに入るで合ってる』
後ろで『誰がうるさい、だァ!?』と叫ぶ真太郎はおいておき……。
そうた君は僕に改めてチームに入ることを告げた。
『ありがとう、えっと……き、君の名前を教えてくれる?』
『そうだった、自己紹介してなかったね。僕は「火志 颯太」。よろしく、名前さん』
『あ、うん。えっと、僕も自己紹介するね。僕は苗字名前。一応このチームのキャプテン、です』
『そっか。改めてよろしく、キャプテン』
この会話で当時の僕が感じた事。
……颯太くんは真太郎にだけ当たりが強いことだ。
そんなわけで、新メンバーである颯太くんが加入した。颯太くんはMF志望のようで、兄さんは早速その方向で颯太くんの特訓メニューを考え出してた。
……ちなみに、その理由は。
『え? 真太郎に攻めも守りも負けたくないからだけど?』
……らしい。
一応真太郎はDf志望だけど、DFだからって攻めにいかないというのはない。だから彼の目標は真太郎を限定にしている以外はよい目標である。……何故対象が1人なんだ。
『名前さんはMFだけど、シュートがFW並なんだよね。僕もあなたみたいなMFになれるように頑張ろうっと』
『! だったら僕は、颯太くんに追いつかれないように頑張らないと!』
『言うね。僕はその方が楽しくて好きだよ』
けど、僕のこともMFという点でライバルとして見てくれているようで。これは僕もまけていられないな!
『うんうん、いい関係が気づけているね』
そんな様子を遠くで見る、優しい視線に僕は気づかないまま、ボールを蹴った。
***
■人物紹介
○火志 颯太(ひし そうた)
藍色のおかっぱ頭が印象的な男の子。瞳の色は赤。一人称は「僕」
真・帝国学園時の佐久間が身に付けていた眼帯に似たものをつけている。ちなみに佐久間とは逆の目に付けている。
基本無気力な人だが、真太郎にだけは負けたくないという理由から、向きになりがち。他の人に対しては割とクールに接する。
真太郎とは腐れ縁という名の幼馴染み。歳は名前と同い年。
髪型のイメージは「ハイキュー!!」の「孤爪研磨」。気だるげな様子もちょっと参考にしてます。
2024/02/24
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