対 イプシロン



試合は雷門のキックオフで開始。
ボールは吹雪さんから染岡さん、そして風丸さんへ渡った。

だが、誰もが1番に注目しているのは木暮だろう。


「木暮くん動きませんねぇ」


目金さんの言う通り、木暮はその場から一歩も動いていない。緊張しているのか、この状況に怯えて動けないか……。

DFだし、あまり動かなくていいっていうのは一理ある。むしろ、今の彼は無理して混ざらない方が良いかもしれない。


「戦闘……開始!」


デザームの声にイプシロンが動き出す。
染岡さんと吹雪さんの前にイプシロンが立ちはだかった。……予想通り、FWを封じに来た!


「イプシロンが動いたー! 染岡には……えっと、クリプトとファドラが、吹雪にはスオームとメトロンがマーク!二人の動きをがっちりと封じてしまったー!」

「……やはり」

「2トップを押さえ込むことで、こちらへのプレッシャーも狙っている」


瞳子姉さんと夏未さんが冷静に分析している中、僕はどうしても気になる事があった。
……角馬さん、どうしてイプシロンのメンバーの名前知ってるの!?

あれ、この感じだとジェミニストームの時も名前把握してたって事?
ジェミニストームの時は、試合に集中していたから気づかなかった……一体どこでその情報手に入れたんだろう……気になる。


「つっこめ、風丸!」

「いっけェーーーッ!!」


風丸さんがボールをキープしたまま上がっていく。そんな風丸さんの前方から、イプシロンのスライディング攻撃が。


「ふんッ!」



流石風丸さん。早い判断で上へ飛び、相手の攻撃を躱した!


「流石にジェミニストーム以上の速さだな……塔子ッ!」


風丸さんが空中でパスを出す。その方向には塔子さんがいた。


「っ、鬼道!」


塔子さんは風丸さんからのパスを胸でトラップし、鬼道さんへとボールを回す。
一度でも止めたら取られる可能性があるもんね。良い判断だ。


「ジェミニストーム戦の経験、ちゃんと生かされているわね」

「はい! 敵の動きを見切っていますよ!」

「だけど、染岡くんと吹雪くんは完全に封じられているわ」


夏未さんの言う通り、染岡さんと吹雪さんには2人ものマークが付いており、動くことができない。
いくらボールを取られなかったとはいえ、攻撃に移せなければ点はとれない。攻撃力がかなり下がっている状態だ。


「イプシロンがジェミニストームごときと同じと思っているようでは、貴様達の地の底が知れている」


しかし、攻撃が全く出来ないというわけでもない。
何も染岡さんと吹雪さんだけが点を取る役割を持っているわけじゃないからね!


「っ、土門!」


鬼道さんが2人のイプシロン選手を抜け、土門さんへとパスを出した!


「打て、一之瀬ェ!!」


土門さんは鬼道さんからのボールを、流れるようにパスした。その先には……一之瀬さんだ。


「”スピニングシュート”」


一之瀬さんが必殺シュートを放った!
DFに阻まれることなく、ボールはゴール……デサームの元へと飛んでいく!

そう思っていた。



「コンマ221秒で着、打ち返せ」

「「ラジャー!」」



いつの間に現れたのか、2人のイプシロン選手が一之瀬さんのシュートを蹴り返したではないか!
しかもそのボールはまっすぐ蹴り返しており……雷門の陣へと向かっている!

外から見ていても分かる……速い!
威力もその分が合わさって高いものなっているはず!


「塔子、壁山!」

「”ザ・タワー”!!」

「”ザ・ウォール”!!」


何とか2人はボールを捉えた!
しかし、威力が落ちているように見えない……っ。


「「うわあああっ!!!」」


ボールの威力に二人が吹き飛ばされた。しかし、ボールがゴールへ向かうのを阻止できた。ナイス、二人とも!


「! 吹雪さんが飛んだっ」


マークを抜けた吹雪さんが、宙にあるボールへと飛ぶ。しかし、吹雪さんを追うように、イプシロンも着いてくる。
振り切れるんですか、吹雪さん……っ。


「貰ったぜ!!」

「「おわっ!?」」


なんと吹雪さんは下から追ってきたイプシロンの選手2人を踏み台に、更に飛んだではないか!
一歩間違えば反則ですよ、それ……!


「”エターナルブリザード”……いっけェーーーッ!!」


吹雪さんは高い位置から必殺シュートを放った。そのシュートはまっすぐゴール、デサームの元へと飛んでいく。


「……」


僕はデサームの方に視線を向けていた。皆に頑張って欲しい気持ちは本心だけど、分析も必要な事だ。デサームがどんな必殺技を使うのか、それを見た上で対処法はあるか……そんな理由で見ていた。


「なっ、」


なんと、デサームは吹雪さんの必殺シュートを片手で受けたではないか!
それも、必殺技を使わずに、だ。


「!」


しばらくの間、ボールとデサームの接戦が続いたが、急に発生した爆発で白煙が起こり、状況が見えなくなった。
……どうなったんだ?


「な、何っ1?」


と、めた……!?
吹雪さんの必殺シュートを、”エターナルブリザード”を止めただって……!?

特に不安定な状態にも見えなかった。完璧なベストかどうかは、僕は吹雪さんじゃないので分からないけど、悪い状態とは思わなかった。


じゃあ、吹雪さんの必殺シュートが、デサームに負けたってことになるの……?


「敵ながら良いシュートを打つ。気に入った」

「……褒めてくれてありがとよ」

「お前達は、我らエイリア学園にとって大きな価値がある。残り2分20秒、存分に戦って貰おう」


___デサームがボールを投げた!


「カットするんだ!」

「おうっ!」

「おぉ!」


鬼道さんの指示によって、ボールをカットするため動いた一之瀬さんと染岡さん。しかし、2人の前にイプシロンの選手が立ちはだかる。


「っ、カットできなかったか……!」


ボールはイプシロンに渡った。……カウンターが来る!


「ジェミニストームより速い……!」


目で追えないわけじゃない。僕が見ている位置がフィールドの外だから、というのもあるかもしれない。

素早いパス回しに、正確な動き……確実にジェミニストームより速く、強い事は確かだ。


「っ、木暮! お前も!!」

「えぇっ!? ムリ! 絶対ムリィ!!」


鬼道さんが木暮に指示を出した。しかし、受けた本人は無理と首を横に振る。
……その間に、相手のパスはFWに回ってしまった。


「”ガニメデプロトン”!」


何あの必殺シュート……!?
スピードが速い。間違いなく、あの必殺シュートは威力が高い……!


「ゴッド…」

「間に合わんッ!!」

「クソッ、”爆裂パンチ”!!」


きっと円堂さんは”マジン・ザ・ハンド”を使いたかったに違いない。しかし、相手の必殺シュートが速すぎるため、”ゴッドハンド”を使おうとした。だが、それでもシュートが速すぎた。

鬼道さんの声かけで、円堂さんは”爆裂パンチ”に切り替えた。
しかし……。


「ぐああぁっ!!?」


聞こえた円堂さんの声と、ホイッスルの音。
……それは、イプシロンに先取点を奪われたことを意味していた。



「開始より1分。残る2分、更に楽しませて貰おうか」





2023/7/30

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