対 尾刈斗中
「ま、でもそれ以前に……彼ら、弱いよね」
昨日の試合を思い出しながら、再びグラウンドに視界を向ける。
グラウンドには尾刈斗中が既にやって来ており、その光景は何処か不気味だ。
「でも、何でだろうね。弱いのに見に来てしまうんだ」
選手達が並び、挨拶をしている光景が見える。
……僕も、前まではあの場所に立っていたんだけど、な。
「それに、キャプテンさんを見てると…。欲望が抑え切れなくなるんだ」
「欲望?」
「うん。……サッカーやりたいっていう欲望」
僕がその言葉を言ったと同時に試合開始のホイッスルが鳴り響いた。
「あの人達の試合してる姿を、抑制剤扱いしてるけど……」
目を閉じて、視界を暗闇にする。
頭に流れるのは、ボールを蹴っていた時の記憶。
……大好きな人とただただ夢中になってボールを追っていた、純粋な頃の記憶。
「此処にいる時点で、それは意味を成してないんだよね」
自分で決めた事だろ、先日の試合を見ただけで揺れるな。
そう自分に言い聞かせながら目を開けると、雷門の11番さんがシュートを決めた所だった。
……ふぅん。あの必殺技をものにしたんだ、11番の人。
ホイッスルが鳴り響き、スコアが変更された。
1-0
雷門が先取点を奪った。
へぇ、やるじゃん。
「ならば何故、あの試合出てこなかった」
帝国のキャプテンの言葉にある可能性が浮かんだ。
……もしかして、あの日狙っていたもう1人っていうのは___僕?
「何?お兄さん達、僕に出て欲しかったの?」
「お、お兄さん…っ!?」
確信したわけじゃない。
遠回しに聞くのも面倒だし、直接言ってやった。___僕が狙いだったのか、と。
帝国のキャプテンと一緒に来ていたもう1人…11番の人が僕が態と言ったお兄さん呼びに顔を赤くする。帝国のキャプテンは無反応だったけど。
……だって、2人の名前知らないし。
「僕があの日、あの試合に出てきたら……そっちに何か得があったの?……いや、そもそもどうして僕がこの学校にいる事を知っていたの?僕、帰宅部だしクラブにも入ってない。……ねぇ、どうして?」
帝国学園のキャプテンに近寄りながらそう問う。
向こうは表情を変えること無くジッと僕を見つめている。
「それは、企業秘密という奴だ。それより、此処にいると言うことは、またサッカーをやるのか?」
暫く見つめ合っていて、やっと口を開いたと思えばさらっと流された。しかも話の内容を変えた。
「さあね」
だから僕もさらっと流すことにした。
だって君達も答えてくれなかったんだから、僕だって答えなくてもいいよね?
そんな事をしている間に、雷門が2点目を獲得したというホイッスルが鳴り響いた。
2020/12/27
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