対 ジェミニストーム



『まだ悠君は5歳で、名前ちゃんは3歳でしょ……?』

『一体誰が面倒を見るのかしら……』


小さい頃、周りの大人達が言っている事が分からなかった。
昔より成長して、いろんなことを蓄えた頭がこの光景の答えを教えてくれた。


3歳の頃にみたこの光景は、両親の葬儀だ。
この時の僕は両親が死んだという事が分からなかった……というより、親の顔が分からなかった。
アルバムには両親と映っている写真もある。だけど、いつ見ても自分の親だという実感がない。


『……っ』


隣に座っていた兄さんは、泣くのを我慢していた。
きっと僕を不安にさせないためだと思う。

だから、両親がいなくなった後も僕に寂しい思いをさせないようにと、ずっと一緒にいた。


『お兄ちゃん、それなあに?』

『これ? これはサッカーボールって言うんだ。こうやって遊ぶんだよ』


その時兄さんが持っていたボール……サッカーボールが、僕がサッカーを初めて知ったきっかけだった。
兄さんがボールを蹴って、自由自在に操るその姿に引かれて、僕もボールを蹴るようになった。

そうやって過ごすうちに兄さんは暗い表情を見せなくなった。
僕も嬉しかった。落ち込んでいる兄さんを見たくなかったから。どう声を掛けて良いか分からなかったから。


そしてある日。
いつものように僕を公園に連れ出した兄さんと一緒にサッカーをやっていた時だ。


『ねぇ』

『?』

『もしかして、名前ちゃんと悠君?』


僕達に話しかけてきたのは、明るい赤色の髪の男の子だった。
その後ろには、白い髪の男の子、少し暗い赤色の髪の男の子、明るい緑色の髪の男の子、少し明るい黒色の男の子がいた。

……どうして”私”達の名前を知ってるの?


『だれ?』

『オレ達は二人を迎えに来たんだよ』

『今日から俺達と一緒に暮らすんだよ』

『家にいないから探しに来た』


信じて良いのか分からない男の子達の言葉に、兄さんを見上げる。
兄さんもどうしたらいいか分からないようで。


『いたいた。名前ちゃんと悠君ね』


男の子達の後ろから女の人が走ってきた。
その人も僕達の名前を知っていた。


『あなた達を探していたの』

『どうして?』

『一緒に暮らすためよ』

『オレ達は怪しい人じゃないよ。オレ達が住んでるとこは、2人と同じような人がたくさんいるんだ』


明るい赤色の髪の男の子のいう、僕達を同じような人の意味が僕には分からなかった。
だけど兄さんは分かったみたいで。


『……分かった。行こう、名前』

『え、お兄ちゃん……?』

『大丈夫。この人達は怪しい人じゃない』


兄さんの言葉を信じて、女の人と男の子達の後を一緒に着いて行く。
車に乗せられ、着いた場所は……僕と年が近いであろう子供達がたくさんいる場所。


『みんな、新しい”家族”よ』


女の人がそう声を掛ければ、外にいた子達が集まってくる。


『ようこそ、×××××へ。今日から二人の新しい家と……家族よ』



***



「……ん」


目を覚ませば、外は夜。
どうやらまだキャラバンは走っているらしい。

隣を見れば、染岡さんも吹雪さんも、通路側を跨いで円堂さんも風丸さんも目を閉じて眠っている。


「……懐かしい夢を見たな」


僕にとって懐かしく、大切な記憶。
……みんなに、会いたいなぁ。

そう思うと同時にまた眠気が襲う。
その眠気に僕は身を委ねた。



対 ジェミニストーム END





2022/2/20


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