参戦! 雪原の皇子
一度休憩することになり、吹雪さんは他のメンバーのアドバイスへ向かった。
その間だけ固定していた足を外してのびのびとしていた。
「……あ」
1人どこかへ歩いていく染岡さんの背中が見えた。
僕はどうしても染岡さんが気になってしまい、その後を追った。
***
「染岡さんッ!」
「……苗字か」
染岡さんは僕の声にこちらに首だけ振り返った。
その声は静かで。
「随分楽しそうだな、お前。そんなに吹雪がいいか?」
「染岡さんは考え方が間違ってる。いきなり参戦した人がエースストライカーなわけないじゃないですか」
それに、と僕は言葉を続ける。
「いくらエースストライカーが吹雪さんになろうとも、豪炎寺さんの代わりになんてなるわけがありません」
「……どういう意味だ?」
「だって、豪炎寺さんは豪炎寺さん、吹雪さんは吹雪さんじゃないですか。誰も代わりになんてなれないんですよ」
「!」
サッカーはいろんなポジションがあって、立場がある。
例えその枠に誰が入ろうとも、その結果があっただけで代わりって事にはならないと思うんだ。
「それに、染岡さんはまだ吹雪さんについて知っていないでしょ? 僕だってまだ吹雪さんのことはほとんど知りません。なのに、吹雪さんを嫌うのは流石に理不尽ですよ」
「……それは分かってる。だけど、どうしても彼奴が豪炎寺の代わりだって思ったら……」
「大丈夫です。確かに強力なストライカーですけど、豪炎寺さんには豪炎寺さんの強さが、吹雪さんには吹雪さんの強さがある。染岡さんが染岡さんの強さを持っている様に、誰も代わりになんてなれません。だって___その人は1人しかいないんですから」
だから、まずは吹雪さんを知る事から始めませんか?
そう染岡さんに言葉を投げる。
「……吹雪を、知る」
「僕も染岡さんの事何にも知らなかったから、最初あんな態度だったけど、今は染岡さんの事、尊敬できますよ」
「……俺も、お前の事は生意気な奴だって思ってた。だけど、ちゃんと考えての行動だって知って、偏見だけの奴じゃないって思ったんだ」
染岡さん、そんな風に僕の事を思ってたんだ……。
「最初は相性最悪でしたけど、今はこうして普通に会話できている。だから、まずは吹雪さんを知って、それからは染岡さんの好きにして下さい」
「そういう所は生意気だってまだ思うよ」
「へへっ、これが僕なんで」
何となくだけど、いつもの調子に戻ってきた気がする。
やっぱり染岡さんはそうでなくっちゃ。
「お〜〜い! 染岡、苗字〜!」
「どこだ〜〜!?」
2人で笑い合っていると、僕達の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「呼ばれてますね。じゃあ戻りましょ、染岡さん」
「……いや、俺はいい。先に戻りな」
「え、なんで……」
「少し1人で整理したいんだ。……お前に言われた事とかを含めてな」
少しでも響いてくれたらって思ったけど、思った以上に染岡さんに響いてくれていたみたいだ。
「……分かりました。じゃあ先に戻ります。あんまり遠くに行っちゃダメですよ?」
「ははっ、分かってるって」
それでは!
と、染岡さんに言って僕は元来た道を戻った。
雪の上を歩いているから、足跡が残って迷っても戻れる。……まあ、雪が降ってたら意味ないんだろうけど。
「あ、苗字!」
「どこに行ってたんだ」
「いやあ、野生のリスがいたから、つい追いかけちゃいました」
「貴女ねぇ……」
僕の嘘を信じているようで、夏未さんは呆れた顔をしている。
……そもそも北海道ってリス生息してるのかな。知らないまま言っちゃったけど、ツッコまれていないから大丈夫かな。
「染岡見なかったか?」
「うーん、見てませんね……」
本当は知っているけど、今は1人にして欲しいって言ってたから敢えて知らないフリをする。
ごめんね、円堂さん。
でも今はそっとしておいてあげてほしいな。
2021/11/14
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