対 尾刈斗中



「ねぇ名前!あなたサッカーに興味ある?」

「んあ?」


昼休み

携帯を弄っていると春奈がそう声を掛けてきた。
僕は身体ごと春奈の方を向いて、机に肘をつきその手に顔を乗せる。


「この前あった帝国学園との試合!貴女見た?」

「……見てない」

「だと思った」


嘘である。ばっちり最初から見てました。
僕の回答にガクッと落ち込むような仕草をする春奈を横目に内心そう呟く。


「どうしたのさ、前までサッカーの話なんてしてなかったじゃん」

「それがね、サッカー部見てたら……」

「見てたら?」

「ファンになっちゃったの!!」


そう興奮気味に言う春奈の圧にちょっと引いてしまう。
この表情……かなりあのサッカー部に惹かれているらしい。


「あ!そうだわ!名前も見にきたら?どうせ家でゴロゴロしてるんでしょ?」

「どうせって何だよ、どうせって。……まあ暇だけど」


春奈とは雷門中に入学してからの付き合いだけど、既にお互いの事を大体知り合ってるつもり。
だから、春奈は僕がだらしない人間なのを知ってるし、僕は春奈が凄い頑固な人間な事も知ってる。


「あーっ!?また第一ボタン開けてるし、リボンもしてない!身だしなみちゃんと整えなさいって言ったでしょ!?」

「だってー、首苦しいじゃん」


僕の身だしなみに春奈はいつも食いついてくる。
基本的に僕はパーカーみたいな首元がすっきりした服が好きだ。そしてスカートは好きじゃない。だってひらひらして面倒じゃん。
本当ならスカートだって履きたくない。中が見えてもいいようにスパッツを履いて我慢してる程である。


「身だしなみチェックの時と、登下校の時はちゃんと付けてるし、大丈夫大丈夫〜」

「そういう事じゃないでしょ!?」


そろそろ春奈の説教に耳を塞ぎたくなってきた……。


「あと、学校から少し離れた場所ですぐ制服乱しているの、知ってるからね」


耳に手を当てようとしたら春奈がこちらをジト目で見つめながら低い声でそう言った。
……何で知ってるんだよ?!
あ、あれか?新聞部で身につけた情報収集能力を使ってるのか!?
何それ反則じゃん!!


「まあ良いわ。で、話を戻すけど。尾刈斗中と試合する事になってるから、見に来なさいよ!」

「えー、強制なの?」

「良いじゃない!この気にサッカーを知りなさいよ!」


恐らく春奈は好きな事を僕と共有したいんだろう。
……あんなに情報収集能力があるのに、知らないんだ。“僕”の事。
まあ先日の試合を見てサッカーに興味を持ったんだから知らなくて当然か。
心の声を悟られないよう、春奈の笑顔を見て「気が向いたらねー」といつも通りを装ってそう答えた。


「……いつか、春奈も知るのかな」


“光のストライカー”と呼ばれたサッカー選手…僕について。
自分の席に戻っていく春奈の背中を暫く見つめて、机に置いている携帯に手を伸ばした。





2020/12/27


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