対 世宇子中



遂に決勝戦が開始された。
世宇子中のキックオフで試合開始。

ボールはアフロディさんに渡る。


「……!!」


あのドリブルの必殺技……。間違いない。あの必殺技も、僕の使うドリブルの必殺技を真似ている……!!
豪炎寺さんと染岡さんを一瞬で抜き去り、発生した竜巻により2人は吹き飛ばされてしまった。

アフロディさんはボールを蹴りながらゴールへと“歩く”。
そう、歩いているのだ。

次に一之瀬さんと鬼道さんがアフロディさんの元へと向かうが、ボールを奪おうとするが再び必殺技にて2人は抜かれ、吹き飛ばされてしまった。
そして、ゴール前近くに立っていた壁山さんと土門さんもその必殺技で2人を抜いて吹き飛ばした。


「……あんなにも簡単に抜き去ってしまうなんて……」


本当に、僕のあの必殺技にそっくりだ。
ついにアフロディさんはゴール前……円堂さんの前まで来た。
それも、一度も走っていないのだ。何という余裕だ。流石の僕も、此処までの余裕ぶりを見たことが無い。


「……!」


目が合った。……フィールドにいる、アフロディさんと。
嘘だろ……?この人数の中、僕を探し当てたと言うのか……?

まあ今日僕は、前線の席に座っているから探しやすかったかも知れない。
だが、それにしても的確過ぎないか……?


「……?「見ていてください、我が天使」………。はぁ!?」


こちらを見て口を動かしていたので、ジッと見る。
なんで今……!?しかも、こんな広い会場で!!それに、やけに読み取りやすかったし!!


「……ま、まあ良い。……見せてみろ、その必殺技を……!」


僕はアフロディさんを見つめながらそう言葉を言う。
アフロディさんはこちらを見て微笑した後、円堂さんの方へと視線を移した。

アフロディさんはペナルティーマークから必殺技を発動した。
……あの技が、“ゴッドノウズ”。僕の技を元に編み出した必殺技……。


「改めて見ても、これだけは言えるよ……。僕の“シャイニングエンジェル”を良く見ている。確かに似ているよ、その必殺技……“ゴッドノウズ”は」


アフロディさんの必殺技“ゴッドノウズ”が雷門中ゴールへと向かう。
円堂さんは“ゴッドハンド”で立ち向かうも……


「!!」


“ゴッドハンド”が破られた。
しかも、今までは単体技で破られた事の無い“ゴッドハンド”を、“ゴッドノウズ”が破ったのだ。
ボールと共にゴールへ入った円堂さん。

0-1
世宇子中が先取点を獲得した。


「……」


再びアフロディさんと目が合う。
僕は黙ってアフロディさんを見つめ返す。


「……“マジン・ザ・ハンド”なら、止められるのかな」


ポジションへと戻っていくアフロディさんから目を離し、円堂さんへ視線を移す。
そう。結局あの合宿で“マジン・ザ・ハンド”は習得できなかったのだ。


「さあ、次は君達の番だよ」


雷門のキックオフで試合再開。
しかし、世宇子はボールを奪いに行く何処とか、動こうとしない。


「……雷門は敵ではないとでも」


染岡さんと豪炎寺さんの合体技“ドラゴントルネード”が世宇子中ゴールへと向かう。
しかし、世宇子中GKは“ドラゴントルネード”を必殺技で軽々と止めた。
そして、キャッチしたボールを豪炎寺さんの元へ放り、「もう一本打ってこい」と言うように挑発したのだ。
自分にされていたら間違いなく切れる自信がある。

“皇帝ペンギン2号”、“ザ・フェニックス”と、強力な必殺技が世宇子中ゴールへ向かってくるが、世宇子中GKは全てボールを止めた。


「こんなにも実力があるのに……。少しも名前が挙がってこなかったのは可笑しい」


注目を浴びる、というものは確かに突然やってくる。
しかし、此処までの実力があるならば去年から噂されていても可笑しくはない。

風丸さん、少林寺、壁山を必殺技で抜き去り、頭に甲冑を被った世宇子中FWの必殺技が雷門中ゴールへ向かっていく。
円堂さんは“ゴッドハンド”で迎え撃つも、再び破られてしまった。

0-2
世宇子中とは2点差になってしまった。


「……!」


フィールドに倒れている雷門イレブンの一人に視線が向く。……少林寺だ。
どうやら、先程の必殺技で吹き飛ばされ怪我をしたようだ。
春奈が状態をを確認していた。…どうやら試合できる状態ではないみたいだ。交代で半田さんがはいった。

試合再開
甲冑を被ったFWの必殺技が、土門さん、松野さん、栗松を襲う。
ボールはもう一人のFWへと渡る。
そして、そのFWの必殺技が雷門中ゴールへ向かっていく。
円堂さんは“爆裂パンチ”で向かって行くも止められず、ゴールを許してしまった。

0-3
点差は既に3点だ。

再び負傷者が。松野さん、栗松だ。
二人に変わって、影野さん、宍戸が入って試合再開。

上がっていった染岡さんに立ちはだかる壁。世宇子中のDFだ。
世宇子中のDFの必殺技が、染岡さんを襲う。


「……あっ」


フィールドを転がって、痛みに耐えているような様子の染岡さん。
あの必殺技で怪我したのか……!
染岡さんに変わって目金さんが入るが……。


「なんて必殺技だ……」


入ったばかりの目金さんが負傷してしまい、退場。…交代枠がなくなった雷門中は、10人で戦う事になってしまった。

この光景を見ていると、思い出してしまうんだ。
僕があの日、故意ではないが怪我させてしまったあの選手達を……、あの試合を。

静まり返る試合会場。
誰が見ても、雷門中が不利だった。

世宇子中に負けた帝国学園は全員入院したのだ。
怪我が酷くなる前に棄権した方が良いと思っていたが……


「……そうだった、このチームは諦めが悪いんだった」


立ち上がった雷門イレブンを見て、僕はそう口に出した。
円堂さんが率いているチームだ。諦めの悪い人達ばかり集まっていて当然じゃないか。

試合再開
いくら雷門イレブンが諦めの悪い人達ばかりが集まっているとはいえ、勝てる訳ではない。
しかし、世宇子中の動きが先程と変わった。
……雷門イレブンを痛めつけ始めたのだ。試合をする気はないと言うことだろうか。

ボールがアフロディさんに渡った……が、そのボールはゴールではなくフィールドの外へと蹴り出された。
ボールが外に出たので試合が中断された。


「……なんだ、あれ」


世宇子中は全員ベンチに戻り、水分補給をとっていた。
別に水分補給をする事は可笑しな事ではない。だが……


「全員同時に水分補給か……。それも、優位をとってる世宇子中が」


どちらかというと、ベンチに戻って水分補給をすべきなのは雷門中の方では、と思うのだが。

試合再開


「……」

やはり試合状況は変わらないまま。
一方に痛めつけられる雷門中。
その光景を見て、段々気分が悪くなってきた。

見ていられなくて、目を背ける。
この状況、もう試合ができる状態じゃない。
主審もそれを見て、試合続行不可、と判断しようとした瞬間。


「まだやるの……?」


雷門イレブンは立ち上がっていた。
その姿はボロボロで、はっきり言って勝機はない。
ボールを持っていたアフロディさんが、止めを刺すと言うように翼を展開した。…“ゴッドノウズ”だ。


「!」


鳴り響くホイッスル。……前半戦終了の合図だった。
僕は逃げるように会場を後にした。



***



「はぁ……、はぁ……っ」


化粧室から出て、近くの壁に寄りかかって息を整える。
気持ち悪さがなくなったとはいえど、気分は優れなくて。

傷つけられていく雷門イレブンを見ていたら、昔自分がやってしまった事を思い出してしまった。…どうやら思った以上にトラウマになっているらしい。
ずるずるとしゃがみこんで、床に着く。
……それと同時に暗くなった。


「どうされたのです?」


……聞こえた声。
アフロディさんの声だった。
顔を上げれば、微笑を浮かべて何を考えているのか分からない表情のアフロディさんと目があった。


「……それは、分かって言ってるの」

「いいえ?……もしかして、試合を見て思い出されてしまったのですか?」


アフロディさんは僕の顔の横に顔を寄せる。
「あの試合の事を」と吐息混じりの声が耳元で聞こえた。


「……っ」

「ご安心ください、勝利は我らのものです。……すぐに迎えに参りますよ」


その言葉を最後に、アフロディさんは目の前から消えた。
その後すぐに聞こえたホイッスルの音。後半戦が間もなく開始される、というものだった。


「……忘れたいのに」


今すぐにでも忘れたいのに。

同じチームだった人達の表情を。
相手選手の怯えた表情を。
倒れていく相手選手を。


「やっぱり、僕と一緒にサッカーができるのは、兄さんだけなのかな……」


ホイッスルの音が聞こえる。後半戦が開始されたんだ。
フラフラする身体で何とかその場を離れ、観客席へと向かった。





2021/02/21


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