対 千羽山中



「うわ〜!!すっげぇすっげぇ!!」


はしゃぎ回っている円堂さんを僕は遠目で見つめていた。
現在、何故か僕は鬼道さんのご自宅にお邪魔している。
……フットボールフロンティア出場校のキャプテン同士でどうぞ、と最初は断ったのだが……


『お前も来い』

『いやいや、キャプテン同士でどう』

『来い』

『はい』


……鬼道さんの圧に負け、こうして鬼道さんのご自宅にお邪魔する事になった。
なーんか、この圧力攻撃何処かで……。


「なあ!兄弟とかいるの?」


そう言って歩き回っている円堂さん。……落ち着きがないなぁ。
因みに僕は、入り口のドアから一歩も動けていない。

こんな広い家、見たこと無いんだもん……!しかも洋風!!
僕が今住んでいる家も結構洋風な感じだが、あれは借り家である。実際の家は1階建ての家で、日本屋敷みたいな家だ。自分では割と広い、と思っているがばあちゃんはそうでもない、と思っているらしい。


「知ってるだろ、春奈の事」


そういえば、春奈も結構僕に圧力攻撃するんだよなー……。って、ん?


「春奈?」

「なんだ、春奈の事知ってるのか?」

「知ってるも何も、友達だけど」


鬼道さんにそう言った瞬間、視界の奥で円堂さんが置いてあるランプを落とし掛けてキャッチしていた。



***



「鬼道さんと春奈が……兄妹!?」

「なんだ、その声は」

「だって、似てない……!!!」


「あ、」と思ったことを口に出した事に気づき、口元に両手を当てたが既に遅し。僕の頭に鬼道さんのチョップ攻撃が落下した。


「円堂さーん、鬼道さんの家なんだよー?」

「わかってるよー」

「僕の言いたいことが伝わってない……」


普通、人様の家に来たら遠慮するものだろ…?それも、初めてなら尚更…。
僕は先程までいた入口から鬼道さんが座っている長椅子に腰掛けていた。
いつまでもその場から動かない僕を見て、鬼道さんが「ここに座れ」と言いたげに隣をポンポンと叩いたので、ありがたく座らせて貰った。あ、結構ふかふかしてる。


「ん?すっげぇ古いサッカー雑誌だなぁ」

「まあな」

恐らく勉強机だと思われる場所に足を止めた円堂さんがそう言った。
うへー……。なんか沢山本が置いてあるー……。
いつの間にか移動していた鬼道さんが、円堂さんが手に持っていたサッカー雑誌を手にとる。
確かに、古い雑誌だ。あれ、何年前のものだ?


「俺がなんでサッカーを始めたか、知ってるか?」


鬼道さんの問いに、円堂さんは首を横に振る。
「だろうな。俺だって人に話すのは初めてだ」と、鬼道さんは円堂さんに言った。そりゃあ誰も知らないでしょ……。


「俺の両親、飛行機事故で死んだんだ」


鬼道さんの言葉に目が見開いていく感覚がした。
……という事は、春奈も同じだと言うことだ。

鬼道さんと春奈のご両親は、海外勤務の多い人だったらしい。なので、家ではよく二人で過ごしていた。……しかし、ご両親は帰らぬ人となり、本当に二人っきりになってしまったのだと言う。
家族の写真もない、幼かったから顔も覚えていない。……その古い雑誌は、鬼道さんと春奈のお父さんが持っていたものなのだという。
自分とお父さんを繋ぐ、とても大切なものだと鬼道さんは言った。
それが、鬼道さんがサッカーを始めたきっかけ。

サッカーをしていれば、お父さんと一緒にいるような気がしていた。ボールを蹴っていれば楽しかったという鬼道さん。
しかし、鬼道さんの周りの人間は『勝利』にこだわった。
次第に『サッカーは勝たなければならないもの』と認識していたのだと、鬼道さんは言った。

その会話の中で出てきた、『影山』という名前。……帝国学園の元監督の人の事だとすぐに分かった。
その人に鬼道さんは染まっていたんだろう。


「……」


二人に両親がいない事に、僕と一緒だと思った。
鬼道さんの口から出ていないから分からないけど、恐らく二人は両親が亡くなった後、孤児院へ入ったんだろう。
そして、そこから別々の家へと引き取られた……。
僕と兄さんは、母親の両親の所へと引き取られたから離ればなれにならなかったけど、もし鬼道さん達のように別々の家に引き取られていたら……。


「苗字?」

「え?」


顔を上げたら、目の前には円堂さんの顔。


「わああっ!!?」

「大丈夫か?何か、暗い顔してたぞ」


余りにもの近さに後退したが、ソファーの背もたれに当たったことで、そんなに後ろに下がれなかった。
……円堂さんはいちいち距離が近いんだよ…!





2021/02/21


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