小型トリオン兵一斉駆除作戦

side.三雲修



「空閑の親父さんが上層部の人達と知り合いなら、空閑ももう大丈夫ですよね……?」

「うーん、どうかなぁ」

「え、いやだってさっき忍田本部長が……」


それは先程の話……唐沢営業部長から唐突に振られた話から展開された話である。



***



『三雲くん、ちょっといいかな』

『え、はい!』

『三雲くんの友人の近界民ネイバーがこっちに来た目的がなんなのか、君は聞いてないかい?』

『目的……ですか?』

『そうだ。相手が何を求めているか、それが分かれば交渉が可能だ。例え別世界の住人でも』


空閑がこっちの世界に来た目的、か。
唐沢営業部長の言う『目的』に当てはまる内容を、今までの空閑との会話になかったか思い出す。


『……父親の知り合いがボーダーにいる。その知り合いに会いに来た。確かそう言っていました』


それは空閑と出会って間もなくの時に聞いた話だった。


『ボーダーに知り合い? 誰の事だ』

『あ、いや……名前は聞いていないんですが』

『曖昧すぎて何の足しにもならん話だな』

『君の作り話じゃないだろうね』

『その父親の名前は? いや、君の友人本人の名前でもいい』


唐沢営業部長にそう言われ、僕はこう答えた。


『父親の名前は分かりませんが……本人の名前は、空閑遊真です』


そう答えた瞬間、ある3人が反応した。


『空閑……!?』

『空閑……?』

『空閑……空閑、だと……?』


その3人は忍田本部長、林藤支部長、城戸指令だ。
ということは、空閑の父親の知り合いと言うのはこの3人なのだろうか。


『空閑? 何者ですかな、その空閑とやらは』

『我々にもご説明いただきたいですね』


鬼怒田さんと根付さんは知らない様子。
じゃあ、あの3人は間違いないなく空閑の父親さんを知っている事になる。


『……空閑有吾。有吾さんは4年半前にボーダーが公になる以前から活動していた……言わば、旧ボーダー創設に関わった人間。ボーダー最初期のメンバーの1人だ。私と林藤にとっては先輩にあたり、城戸さんとは同輩にあたる』


忍田さんの説明を聞いて、始めに思ったことは空閑から聞いた話……親父さんはボーダーではなく、ボーダーの人と知り合いだという話と違ったことだ。
まあ、本人が知らなかった、というのもあるかもしれないけど……。


『三雲くん。有吾さんは……その子の親は今どこに? 君は聞いていないか?』


忍田本部長の問いに、ぼくはもう一度空閑との会話を思い出す。


『……空閑の親父さんは、亡くなったと聞いてます』


そう答えると、少しの間静寂が部屋を包んだ。
そんな中、忍田本部長が口を開いた。


『……そうか。しかし、そういう事ならこれ以上部隊を繰り出す必要はないな。有吾さんの子と争う理由はない』

『……まだ、空閑の子と確認できたわけではない。名を語っている可能性もある』

『それは後で調べればいい話だ。迅、三雲くん、繋ぎをよろしく頼むぞ』



***



それで会議は終了したのだ。
あの話なら空閑はボーダーにとって味方側になるはず。だから狙われることはないと思ったんだけど……。


「……んー、まぁそうなんだけど。メガネくんも何となく気づいてると思うけど、今ボーダーは大きく分けて3つの派閥に割れてんだよね」

「派閥?」

「そう。近界民ネイバーに敵意のある人が集まった『近界民ネイバーは絶対許さないぞ主義』の城戸さん派、近界民ネイバーに恨みはないけど、町を守る為に戦う『平和が第一だよね主義』の忍田さん派。そして、『近界民ネイバーにも良いヤツいるから仲良くしようぜ主義』の我らが玉狛支部。でまぁ、うちと城戸さんとこは考えが正反対だから、あんまり仲がよろしくないワケ」

「なるほど……」


迅さんの説明で、先程のA級隊員……三輪先輩の言葉が腑に落ちた。
三輪隊の人から、三輪先輩が誰よりも近界民ネイバーに対して恨みがあるということは聞いていたけれど、どうして玉狛支部が裏切り者になるのか、と。


「でまぁ、城戸さん派は1番でかい派閥だから、ウチが何かやっても王者の余裕で見逃してもらえてたけれど……もし遊真とウチが手を組んだら、多分そのパワーバランスがひっくり返る」

「空閑1人でそこまで!?」

「ブラックトリガーってのは、そういうもんなの。ま、城戸さん派的にはそれは避けたいだろうから、どうにかしてブラックトリガーを横取りしようとするだろうなァ」


そう言って先を歩く迅さん。
……どうにかしても空閑のブラックトリガーを奪いに来る、か。
もしかしたら、さっき名前が出ていたあの人が出てくるのでは。そう思ってしまい、つい口に出してしまった。


「あの、迅さん。さっき出てきた苗字隊員という人はどの派閥になるんですか?」


先を歩く迅さんが足を止めた。
……聞いてはいけなかっただろうか。


「苗字隊員……名前ちゃんは忍田さん派だね。それも、忍田さん直属の部下。城戸さんは直接命令はできないよ」

「そうなんですか……!」


その苗字隊員は忍田さん派になるらしい。
なので城戸さんから直接命令はできないらしい。


「でも、さっきできそうな雰囲気でしたけど……」

「上層部とは顔が利いてるんだよ。それに、あの子はボーダー入隊時期おれとほぼ変わらないし」


迅さんとほぼ同じ時期にボーダーに入っているということは、経験値も高いだろう。
つまり、かなりの実力者という事になる。


「でも大丈夫。あの子ならウチの味方になってくれるよ」

「え、でも忍田さん派なんですよね?」

「そうだね」

「根付さんの話だと、城戸さん派に聞こえましたが……」

「あー……まぁ確かにそうかもしれない。だけどあの子は誰かを責めるんじゃなくて自分を責める、自己犠牲予備軍なんだよね」

「はぁ」

「だから、根付さんの発言は間違いだよ。あの子は近界民ネイバーを恨んでいるんじゃなくて……自分を恨んでいるんだよ」


そう言った迅さんの表情は、背を向けていたから分からなかったけど……その声音は悲しそうに聞こえたんだ。



小型トリオン兵一斉駆除作戦 END





2022/2/11


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