私を待ってくれた人達



「……うん、分かった。待ってるね」


2月5日
私の意識が戻ってから7日目。今日が退院日だ。

検査が終わり、忍田さんに今日退院してよいこと伝えるため、廊下で電話していた。今日の夜、忍田さんが迎えに来るようなので、それまで病室で待機だ。


「……このお見舞い品、部屋に入るかなぁ」


果物とかはお見舞いに来てくれた人達の協力もあって何とか消費できたけど、お花は……うん、なんとかなるはず。捨てるなんてできないし。
そう思いながらベッドに座っていると、病室のドアが開いた。


「……!」


そこに立っていた人と目が合う。つかさず私は口を開いた。……目の前にいる人の前で取る、いつもの態度を装って。



「随分と遅いお見舞いですね。桐絵の言う暗躍でもしてたんですか? ……迅さん」



病室のドアを開けっぱなしでこちらを見つめる蒼い瞳は少し大きく見開いていた。どこか暗い雰囲気を纏ったその人……迅さんは病室へ入ってきた。どこか困ったような、悲しそうな……そんな表情の迅さんに対し違和感しか感じない。


「……こっちの椅子に座らないんですか?」

「えっと、こっちのほうに座りたい気分だったから、かな?」

「いや疑問形で返されても……」


またもや違和感が私を襲う。私の中ではベッドの側に設置されたままの丸椅子に座ると思ったのに、迅さんは奥の方にある小さなボックスソファに座った。
というより何その話し方。なんかよそよそしい。他の人から聞けば何時ものように感じるのかもしれないけど、長年の付き合いである私は違和感にしか聞こえない。そして、間違いなく”無理”しているのが分かるんだ。


「……三雲君のことですよね」

「え?」

「落ち込んでるんでしょう? 聞きました、怪我を負って入院してたと」


私の意識が戻って2日目。時間を見つけて会いに来てくれた桐絵が教えてくれた事だ。どうやら私と同じ近界民ネイバーの攻撃で大怪我を負ったそうだ。何故彼が怪我を負うことになったのかについてだが、どうやら千佳ちゃんが狙われていたらしく、彼女を守るために奔走していたようだ。何故トリガーを解除するに至ったのかは本人に聞いた方がよさそうだ。


「死ななかったから良かったじゃないですか。あなたはその副作用サイドエフェクトで仲間を、後輩を守れたんです。まあ、怪我をさせてしまったことに罪悪感はあるかもしれませんが、いなくならなかっただけ良かったと思いますよ」

「……」

「……なのにまだ落ち込んでいるんですか? そんな姿じゃ後輩達に示しがつきませんよ。それとも怪我させた事を引きずっているとか?」

「……まあ、そうだね」


いつもの私だったらこんなに喋らない。それも迅さんに対して、だ。いつもなら迅さんから話しかけてきて、一方的……まではいかないけれど、会話のキャッチボールができてるかどうかと言われると、できてないほうに傾いてるってくらいの勢いで喋り倒してくるのに。それに対し私は適当に返事をするだけ。それが私達の会話のはずだ。

なのに目の前にいる迅さんはほとんど喋らない。私ばかりが喋っている。……明らかに落ち込んでるし、引きずってる。


……そういう所が。


「あーっ、もう!!」

「!?」


急に大声を上げたから、顔を下げていた迅さんが身体をビクリとさせた。そして、顔を上げてこちらを見た。


「私、迅さんのそういうところが昔から嫌いだったんです!!」

「え」

「まあそれ以外にも沢山ありますけど。まず変態なところ、ヘラヘラしてるところ。それと……」

「まだあるの?」

「言ったでしょ、沢山あるって。でも、一番嫌いなところは___そうやって自分の所為でって落ち込んでいるところです!!」


ビシッと指をさせば、迅さんは目をパチパチと瞬かせながら私を見た。

そうだよ。流石の私だって最初からこの人の事を嫌いだったわけじゃない。徐々に感じていった違和感が”嫌い”だと思わせていたんだ。その違和感がこれだ。

どうして未来が見えるだけで自分の所為だと言うんだろう。誰もあなたを責めてないのに、どうして被害者のような顔をしているの?
それがずっと不思議で、おかしくてたまらなかったんだ。




2022/5/9


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