私を待ってくれた人達



「名前さん、こんにちは」

「京介! あ、レイジさんも! 2人ともいらっしゃい」

「元気そうだな」

「あはは、何とか」


2月4日
私の意識が戻ってから6日が経過した。

退院を明日に控えた今日、京介とレイジさんが病室を訪れた。……うん、相変わらずこの人達の表情は固い。師弟揃って表情が固いってすごいな……なんか別の所も移ってない?

二人は椅子には座らず、ベッドの近くに立った。


「すみません、バイトが忙しくて来れませんでした」

「いいのいいの。忙しい中来てくれてありがとう」


どうやら京介はバイトで忙しい中、時間を作って来てくれたようだ。申し訳ない。


「……本当に良かったです」


ホッとした様子の京介を見て、心配させてしまってたんだと実感する。年齢の割には大人っぽい彼だけど、笑う姿は16歳だなって感じる。


「……名前。お前に聞きたい事がある」

「? はい、なんですか?」


真剣な表情でレイジさんはこちらを見ている。一体何を聞かれるのだろうか。


「お前がS級隊員として認められているブラックトリガー。それを作ったのは香薫なのは間違いないな?」

「はい。どうしたんです、そんなことを聞いて」


昔からの仲間であるレイジさんは、このブラックトリガーを作ったのが兄さんであるのは知っている。でも、確か京介には話してなかったはず……。


「迅に聞いた。ブラックトリガーを起動すると香薫になると」

「!」

「本当なのか?」


迅さん、話したんだ。私がブラックトリガーを起動すると兄さんの意識と交代していること。あの人のことだから勝手に話したって事は……ないと信じたい。真面目なときは真面目にやるのは知ってるし。

まさか今回の侵攻で風間隊だけでなく、木崎隊こと玉狛第一メンバーにも知られるとは。まあでも、どちらも兄さんと関わりがあった人がいるから、問題はないのかな。


「……本当です。私がブラックトリガーの起動の意思表示をすると、兄さんに変わります。その間の記憶は一切ありません」

「記憶がない……?」

「実際にそれを見ているのは私じゃなくて兄さんだから。なくて当然なんだよ」


初めは驚いたし、慣れるまで時間がかかった。でも、それで良かったのかもしれない。


「聞いた話だと、ブラックトリガー換装後は香薫の姿にもなれるそうだな」

「はい。何を基準にしてるのかは知らないんですけどね」


だってもし記憶とかが共有されてたら、ノーマルトリガーの時に困ると思うから。
トリオン体って外見を変えられるっていう魅力があるけど、生身と変えすぎると支障が出るって聞いた。もし共有されてたら、兄さんの動きに自分の身体が着いていけなくて、生身のときもノーマルトリガーの時もぎこちない動きになってるかもしれない。


「……レイジさんは、もし兄さんに会えるなら会いたいですか?」

「まあ、積もる話はあるが……どうしてだ?」

「昨日、忍田さんに聞いたんです。兄さんを知ってる人に限定されちゃうんですけど、ブラックトリガーを対人で話す時に使っても良いって」

「それって……」

「兄さんと話せるって事ですよ」


今までそんな話なかったのに、何故許可することになったのか。それは先日の大規模侵攻で兄さんが風間隊と偶然鉢合わせたことがきっかけであると話すと、レイジさんは「そんな経緯が……」と声を漏らした。


「ま、先に風間と話をさせてやれ。俺は後回しでいいから」

「じゃあ忍田さんに話しておきますね」

「あの、俺も名前さんのお兄さんに会いたいです」

「なら玉狛支部に来て貰うか」

「ちょっと待ってください? 玉狛支部で私がブラックトリガー起動した後の事知ってるのって誰がいます?」

「俺と京介、小南に宇佐美だ。迅はいいとして、遊真はレプリカが絡んでるのを聞いたから知っていると認識してるんだが……」

「合ってますよ。でも三雲君と千佳ちゃんはどうしましょうか……」

「そこも合わせて忍田さんに相談してみる……」


今日はいなかったけど、桐絵も兄さんに会いたがっているそうだ。となれば、玉狛第一メンバー全員の予定が空いてる日になる。


「でも三雲君達の訓練は大丈夫ですか?」

「それもありますけど、ランク戦の作戦は自分達で練るようにさせてます」

「お、おぉ……! 師匠っぽい」

「名前は作戦を立てるとかそういうの向いてないからな」

「う、本当だから言い返せない……!」


レイジさんの言葉にダメージを受けてると、京介がクスクスと笑った。恥ずかしいけど、楽しそうにしてるから言い返す気力がわかないや。


「退院したら玉狛に遊びに行くね」

「待ってます」

「連絡してくれれば迎えに行くぞ」

「じゃあ……お願いします」


京介とレイジさんを見送って一息着く。
……こうして沢山の人が来てくれたけど、あの人はいつ来るんだろうか。私の予想ではすぐに来てくれると思ってたんだけどな。


「……まあ、忙しいって聞くし」


少しだけ覚えた寂しさを隠すように、私はゲーム機へ手を伸ばした。



私を待ってくれた人達 END





2022/5/9


prev next

戻る











×
- ナノ -