私を待ってくれた人達



「名前さああああああんっっっ!!!」

「あれ、何だろう。ここ何日連続で聞き覚えがあるなぁ」


2月1日
私の意識が戻ってから3日が経過した。

今日からB級ランク戦が始まってROUND1の解説に佐鳥君が出るんだよね、と思っていた時に病室が開いた。そこに立っていたのは公平と米屋君だった。公平は私と目が合った瞬間、こちらへ飛び込んできた。君のオペレーターと後輩君も同じだったんだよ。

あと、治っている証拠なのか、それとも抱きつかれた時に生じる痛みに慣れたのか定かではないけど、痛みを余り感じなくなった。できれば前者であって欲しい所だ。


「おれずっと怖かったんすよ!? 名前さんが近界民ネイバーにやられて大怪我したって聞いて、ずっと起きないし……っ」

「あああごめんごめん! 泣かないで、公平っ」

「な、泣いてません!!」


と、目の前で強がっている公平だけど、その瞳にはしっかり涙が溜まっている。心配させてしまって、不安にさせてしまっていたんだって改めて感じる。


「もう大丈夫なんすか?」

「今の所はね。とりあえず余計な事はしないようにって釘を刺されてるよ」

「退院とかもう決まってます?」

「ちょうどさっき検査があったんだけどね、元々予定だった日に退院できそうだよ」

「マジッスか!?」

「いつが予定なんすか?」

「2月5日だよ。あと4日後!」


手をパーの形にしながら退院予定日を伝えると、2人とも笑顔を見せてくれた。……今目の前にある笑顔が、私が眠っている間暗かったなんて想像できない。
そう思っていると、米屋君の後ろに誰かがいることに気づく。その姿には覚えがあった。


「あれ、緑川君」

「……どうも」


隠れていた人……緑川君の名前を呼ぶと素っ気ない返事が返ってきた。私、公平と米屋君しかいないと思ってた……ごめん!!


「お前態度わりーぞ」

「ふんっ」

「いや、2人しかいないと思ってたから、私が悪いよ。ごめんね?」

「……」


公平の言葉に自分が思ってたことを伝えた。しかし、緑川君から返答はなく、そっぽをむいてしまった。…・・やっぱり私、嫌われているのかな。私、何かしたかなぁ……。自覚がないのは悪い事だけど、思い返しても何が原因なのか分からない。教えてくれないかなぁ。


「名前さん! 退院したらまた模擬戦して欲しいです!」

「勿論だよ。でも時間ある?」

「名前さんのために作ります!」

「公平が暇な時でいいよ。わざわざ時間作らなくても大丈夫」

「おれがそうしたいんですっ」


キラキラエフェクトが掛かってそうなほど眩しい笑顔で話しかけてくる公平。う、眩しい……。
というより、公平そんなに模擬戦したいのかぁ。好きだねぇ。


「できるんですか? 大怪我したのに」

「おい、駿っ」


緑川君の言葉に米屋君が焦った声を出す。大丈夫、緑川君の質問は当然の疑問だから。


「ずっと寝たっきりだったから、きっと感覚が鈍ってると思うんだ。だから取り戻すために相手になってくれるなら嬉しいなーって思って」

「……ふーん」

「緑川君もどうかな?」


公平と米屋君は言わなくても模擬戦の相手をしてくれそうだし、緑川君にどうかと尋ねてみる。
もう緑川君とは模擬戦やってないし、彼の速さはいい経験を積めるからこちらとしては受けてもらえると嬉しいんだけど。

とはいっても、私緑川君に嫌われてるから無理かなぁ。



「……ま、暇だったら相手になってあげてもいいよ?」



と、思っていた時、緑川君から了承の返事を貰えた。予想外の返答に数秒固まってしまった。そんな私に気づいた緑川君はチラッとこっちを見た。


「……何その顔」

「だって嫌かなって思って」

「ま、今のアンタだったら勝てそうだなって思っただけ」

「あ、駿お前ずりー」

「でも相手の弱点を突くのは良い狙い所だよね」

「褒めちゃダメですよ、名前さん」

「え、ダメなの?」


だって兄さん言ってたよ?
相手の隙または弱点を見つけたら迷わず討てって。もしかして使う場所、違う?


「……ふふっ、あははっ!」

「!」


公平の言葉に首を傾げていると、突然緑川君が笑い出した。私、変な顔してたかな!?


「やっぱり変な人」

「え」

「アンタが言ったんだからね。容赦なく狙うから」

「……うん。お待ちしてます」


初めて彼から貰った宣戦布告に私は頷いた。入隊してすぐにその才能を発揮した緑川君だから、これからが楽しみだ。でも、まだ負けてあげるつもりはないよ。


「オレも! オレもいいっすか!?」

「米屋君は言わなくてもそのつもりだと思ってた……」

「じゃあおれもそのつもりに入ってるって事でいいんですよね!?」

「勿論」


太刀川さんとの約束に加え、ここにいるA級3人も追加だな。同じ人ばっかりだったらクセついちゃうし、このくらいの人数が丁度いいかもね。……太刀川さんは無理だとしても、この3人には勝ちたいなぁ。


「あ、もうこんな時間か。はえー」

「名残惜しいけど帰るかー。名前さん、また!」

「またね、3人とも」


3人に手を振って別れを告げる。……今日だけで緑川君とかなり進展があったのでは。これは公平と米屋君と同じ感じに接して貰える日が近いかも?





2022/5/8


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