私を待ってくれた人達



「……ぐすっ」


誰かのすすり泣く声が聞こえる。……聞き覚えのある声だ。この声は、桐絵?
片手に温もりを感じる。誰かが私の手を握っている。


「……!」


握られている手に力を入れると息を呑む声が聞こえた。そして、その手を握り返された。

段々と意識が浮上していく感覚がする。今なら目を開けられそう。そう思って瞼に力を入れた。


「名前……?」

「きり、え」


目を開けると視界にいっぱいに桐絵が映った。宝石の様に澄んだ綺麗な瞳に涙を溜めた桐絵が。彼女の背後には白い天井が映っている。……私、横たわっているんだ。
そう思ったら自分の身体が柔らかい何かに乗っていると気づいた。吸い込んだ空気にも覚えがある……ここは病院?


「わっ」

「遅いのよ、バカバカバカっ!!!」

「い、痛い……っ、痛いってばっ、桐絵……!」


自分のいる場所が分かった瞬間、桐絵が飛びついてきた。受け止めようとしたけどそもそも身体を起こしてなかったから無理だった。あと、飛びついてきた桐絵の影響で身体に痛みが走った。

そうだった。私、近界民ネイバーの攻撃で怪我してたんだった。それが桐絵が抱きついて来た衝撃で傷が悲鳴を上げたんだ。


「あ、ごめんなさい……でも、あんたがさっさと起きないのが悪いんだから!!」

「わかった、わかったから……っ」


泣き出した桐絵を宥めながら、さりげなくちょっと離れてもらえないか頑張ったけど結構強い力で抱きしめられてる。それほど桐絵を心配させてしまってたんだね。


「!」


桐絵の鳴き声で満ちている病室に別の音が響く。その音の発信源はこの病室のドアだった。誰か来たんだろう。そう思って桐絵の背中に腕を回した状態で何とか起き上がった。


「名前……!」


そこに立っていたのは、ドアを開けたまま驚いた目で私を見る忍田さんだった。私と桐絵を交互に見て、そしてこちらを見た。


「いつ、目を覚ましたんだ……?」

「今さっきだよ。……迷惑、かけました」

「いいんだ。……良かった、目が覚めて」


忍田さんはこちらへゆっくりと近付くと、私と桐絵を包み込むように抱きしめた。



***



しばらくの時間、抱きしめ合った後。
忍田さんは携帯を片手に病室から退室。桐絵は漸く落ち着いたのか、私から離れて丸椅子に座った。

改めて病室を見渡すと、いろんなものが置いてある。その中にはゲームソフトのパッケージも置かれてある……ん?


「桐絵、そのゲームソフト取ってくれない?」

「これ? ……はい、どうぞ」


私が見ていたものを桐絵が取ってくれた。そのゲームソフトを手に取って確認する。……何か張ってある。あれ、この字……見た事ある。というより、名前が書いてある。


「”新作のゲーム。わたしのオススメだよ。起きたら一緒にやろうね”。……相変わらすだなぁ、柚宇」


このゲームソフトを持ってきた相手を思い浮かべてクスッと笑みが零れた。うん、退院したら時間を見つけてプレイしよう。きっと柚宇は思っている以上にプレイスキルを磨いてるだろうから、早く追いつかないと。


「私、どれくらい寝てたの?」

「一週間ちょっとね。大丈夫だってのは分かってたけど、ずっと起きないから不安だった」

「……えっと、ごめん」


いつも元気な所しか見ないから、こんなにも暗い雰囲気の桐絵を見るのは新鮮だ。それと同時に心が痛む。


「いい? 退院したらまず玉狛に来なさいよ! 絶対よ!!」

「分かった、分かったからっ」

「……ま、伝えたらみんなここに来るでしょうけど」

「そうかなぁ。三雲君達を見てあげなきゃでしょ? もうすぐランク戦だし」

「ほんと、自分の事に対する優先度は低いわよね、あんたは」


桐絵は呆れた様子で自分の膝に肘を着き、私をジト目で見た。


「みんなあんたを心配してたのよ。ま、この見舞い品をみれば分かるでしょうけど」

「……うん」

「そろそろ自覚したら? あんたを心配しない人なんていないって」

「……頑張る」

「それならよし! じゃ、私はみんなに報告しに帰るわ。また来るわ!」


桐絵はそう言うと、丸椅子から立ち病室を後にした。その表情は先程見た暗いものではなく、明るいいつもの桐絵の顔だった。

桐絵が出て行った扉が締め切る前に忍田さんが戻ってきた。一度桐絵が走って行った方向を見て、こちらを見た。


「名前、さっき先生とすれ違ったから意識が戻ったことを伝えたんだ。そしたらすぐに検査を行うって言ってたよ。もうすぐ来るはずだ」

「分かった」


忍田さんに言われたとおり、数分後に先生と看護師さんが病室にやってきた。どうやらここで診察を行うらしい。忍田さんは退室するようで、病室を出て行った。





2022/5/7


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