大規模侵攻・後編
side.緋色
『名前、聞こえるか』
目が覚めたと同時に忍田さんの声が右耳から聞こえた。確か右耳には通信機を付けていた。兄さん……ブラックトリガーに換装する際に忍田さんと決めたことだ。
……って、あれ?
私、今生身?
「は、はい。あの、まさか兄さんがやられたんですか?」
『いいや、トリオンの限界だ』
「そ、そうなんですね。良かった……」
兄さんが倒されたのでは、と思ったが私の思い込みだった。兄さんがそう簡単にやられるわけがないもの。
どうやら貯蔵されていたトリオンが少なくなってトリオン体を維持できなくなったらしい。
「交代前まで兄さんは何をしていましたか?」
『市街地へ侵入しようとしているトリオン兵の討伐だ』
「では、私は兄さんのやっていた事を引き続き行えばいいんですね」
『頼めるか?』
「勿論です」
座り込んでいた身体を起こす。
もしかして私と交代する際に気を使って座った状態で交代したのかな……。
そんな兄さんの心遣いに口元が緩みそうになり、急いでそのことを振り払う。
今いる場所は戦場だ。気を緩んでちゃダメだ。
『こちらの指示に臨機応変に対応して欲しい。今から伝える場所へすぐ向かってくれ!!』
「了解!」
忍田さんの命令に返事をしながら自分のトリガーホルダーを取りだした。
トリガー起動の意思を込めて、いざトリオン体へ換装……と思った時だった。
「___え……っ?」
トリガーホルダーが手から離れていく。
手を見たら落ちていくトリガーホルダーと……自分の手に刺さった黒い針のような何か。
それを見た瞬間、鋭い痛みが手の甲から前進へと走った。
「かはっ、!?」
次に痛みが走ったのは、横腹だった。
一体、どこからこの針が……っ。
痛みが走る中、副作用で黒い針が現れている場所を見る。
「なに、これ……ッ!?」
黒い針が伸びていた場所は、黒いゲートのような場所だった。
それは先程まで針と表したが、釘と言う方がしっくりする。
「い、たい……!!」
手の甲と横腹に刺さった黒い釘が消えた。
それと同時に立っている事ができなくなった身体が前に倒れる。
『どうした!? 何が遭った、返事をしろ名前!』
痛みで動かない身体。
右耳から聞こえる忍田さんの声に返事する気力が痛みによってどんどん減っていく。
「ぁ……っ、」
服に温い何かが染みこんでいく感覚がする。手にもその温い感覚を感じた。顔を上げることもできず、副作用で見てみると……手の周りに赤い液体が広がっていた。
その赤い液体は___私の血だ。
『返事をしてくれ、名前ッ!!』
忍田さんが私を呼んでいる。
返事をしたいのに、痛みで声が出ない。
「いたい、いたいよぉ……っ」
痛みで段々弱気になっていく。
視界もぼやけて、このまま死んじゃうのかなと柄でもない事が頭に浮かんだ時だ。
「ターゲット確認」
冷たい女性の声が聞こえたのは。
2022/4/17
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