大規模侵攻・中編
現れた新型を雷柱で倒した所で、周りにトリオン兵がいなくなったことを沢村さんから伝えられた。
というわけで、場所を移動し再びトリオン兵狩りをしていたわけだが……。
「そうじゃん。俺から向かうんじゃなくて、引き寄せればいいんだった」
俺の副作用『トリオン強化』。
トリオン能力を強化するという単純な副作用だが、デメリットとしてトリオン兵を引き寄せてしまう。
トリオン兵はトリオン能力が高い人間に近寄っていくようプログラムされているから、元々トリオン能力が高かった俺がこの副作用を使用すると俺にターゲットが向くって訳だ。
時にはこの副作用で味方を庇ったりしたっけ。俺はそう易々とやられるような柔なヤツじゃなかったから、この副作用のデメリットはあまり気にしてなかった。……ま、結局は死んだんだけどさ。
「さ、来いよ」
副作用を発動すると、遠くから何かが近付いてくる気配を感じる。うんうん、俺の副作用は今日も正常だ。
俺と名前の副作用は任意で切り替えができる。悠一のような何かしらのトリガーで発動する副作用の方が多いらしく、俺と名前のようなタイプは珍しいらしい。そもそも、兄妹揃ってトリオン能力が高いってのも珍しいらしいけどな。
「……しめしめ、来たな」
数秒後、大きな物音を立てて現れたのはトリオン兵。
5体か、まあ反応したのがこれだけか。
俺のこの副作用の効果範囲は正直にいうと把握していない。名前の場合は測定ができるけど、俺の副作用はトリオン兵がいないと調べようがないからわかんねーんだよなぁ……。
「ほらほら! そんなもんかよ!!」
俺の副作用によってトリオン兵が寄ってくる。それは例えるなら、エサに寄ってくる虫。だけど俺は大人しく喰われるつもりはない。
罠だと知らずにやってくるトリオン兵を倒すんだよ。
相手はプログラムされた存在だから、それが罠だと気づかない。その様子を見るたびに思うけど、本当に滑稽だ。
『香薫!』
さっきからまさっちが俺を呼んでいる。
……もうなんだよ。
「まさっち。俺は楽しい事を邪魔されるのが嫌いだって知ってるだろ」
『そうじゃない。お前の存在は機密事項なんだ、だから好き勝手にされると困るんだ』
……分かってる。
『それはお前が一番分かっているだろ』
分かってるよ……!
だけど……!!
「……チッ!!」
俺に向かって突進してきたトリオン兵、モールモッドの弱点に向けて、持っていたブレードを投げた。
ブレードはモールモッドの弱点へ綺麗に刺さった。弱点を突かれたモールモッドは完全に停止した。
ビリビリと音を立てながら閃光が俺の身体中に走る。
その様子がまるで今の俺の感情を表しているように見えた。
「……俺だって好きにやりてーんだよ」
ずっと眠っていて、起きたと思えば同じ事の繰り返し。
俺はもう人間ではないから、忘却という概念がない。だから、今まで見てきたものは全て覚えている。
俺がちゃんとした戦闘に呼ばれたのは、今を含めて2回だけ。それ以外の戦闘は全て訓練だけ。
決まった動きしかしないプログラムじゃ俺は満たされなかった。
だからこうした戦場に呼ばれたのが嬉しかった。
……なのに。
「ずっと閉じ込められてる俺の気持ち……まさっちにはわかんねーよ!!」
俺の思うようにやりたい。
でも、そんな事をしたら俺という存在が、死んだ人間の存在が誰かに目撃されたら?
分かってる。分かってるんだよ……!
正しいのはまさっちの方で、これは俺のわがままなんだってことも。
それでも、自分の好きな事を抑えられ続けるのはつらくて。
「ッ!!」
残っていたトリオン兵を思うがままに斬り刻む。
トリオン兵の形がなくなるまでバラバラにした後、少しだけ頭が冷静になった。
初めてまさっちに反抗した。
でも、モヤモヤした気持ちは晴れなくて。
「……分かってる、分かってるんだよ。そんなの、俺が一番……!!」
どうして魂が封印されたんだ
どうして心があるんだ
どうして記憶が残ったんだ……!
視界に入った自分の髪をくしゃりと握る。
行き場のないこの気持ちは、どうしたら晴れる?
「……俺が、ただのブラックトリガーだったら」
普通のブラックトリガーで、適合者の意思で動くトリガーだったら。
こんなに苦しむことはなかったのに。道具で、兵器で……ただのトリガーでいられたのに。
「……ははっ。これも俺が願ってしまった代償なのかよ」
乾いた笑い声が俺の口から出てきた。
自分に対して無意識に嘲笑したらしい。
「ただ彼奴のそばに……名前のそばにいられるなら、それで良かったんだよ……っ」
彼奴の泣き顔を見て、死ねないと思った。それは本当だ。
でも、一番に思ったのは___俺が、名前と離れたくなかったんだ。
その気持ちが、俺というブラックトリガーを形成したんだろうか。
「……俺も、お前らみたいにプログラムされた存在のように、思うがまま扱われる存在だったら……楽だったのかな」
その問いに答えてくれる者は、誰もいない。
2022/4/15
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