兄さんの秘密
「あ、おい空閑!」
「これはおもしろくなってきたぜ〜」
「くっそ〜、おチビはオレが先約だったのに」
「終わるまで待つしかないね」
「あ、苗字先輩と三輪隊の……」
「米屋陽介。陽介でいいよ、メガネボーイ」
「メガ……?」
三雲君の反応を見ると、三輪隊として会ってるらしく顔だけ知ってたみたいだ。
「ようすけはしおりちゃんのいとこなのだ」
「え、宇佐美先輩の?」
「そしておれの陽なかまでもある」
「陽仲間……? なんだ、それ」
米屋君、栞ちゃんと従兄弟の関係なんだ……。
あと陽仲間なのは名前の事かな?
「お、あそこの席空いてんじゃん。座ろーぜ。先輩も」
「なまえちゃん、ひざにのせて」
「はいはい」
私は米屋君の隣に座り、自分の膝の上に陽太郎君を座らせる。
三雲君との間に雷神丸が座った。
……そういえば前に桐絵が雷神丸の事を犬って言ってたような。嘘でしょ、桐絵……どう見ても雷神丸はカピバラだよ。
と、雷神丸のことは置いておいて。
私達が席に着くと同時にランク外対戦開始のアナウンスが流れた。
どうやら三雲君の時と同じく10本勝負で行うようだ。
「緑川ってA級4位の部隊なのか。強いとは思ったけど、そんなに上だったんだ」
「ようすけとどっちが強い?」
「ソロだとどうだろうなー。オレ、ポイント覚えてねーし、勝ったり負けたりだな」
「なまえちゃんは?」
「あんまりやったことないけど、一番最後に模擬戦したときは勝ったよ」
「そりゃ苗字先輩に適う訳ないっしょ」
「それは言い過ぎ」
緑川君とはあまり模擬戦をしたことがない。
一緒にいることが多い公平や米屋君と比べると全然やったことない。
彼の実力は偶に耳に入るから、少しは分かる。
でも公平や米屋君ほどは分かってない。
「でもまあ、緑川はまだ中坊だし、才能ならあっちが上なんじゃねーの」
米屋君の言葉が終わると同時にブザー音が鳴り響く。
『空閑、緊急脱出。1-0、緑川リード』
「ゆうま!!」
米屋君の話を聞いてて全然見てなかった。
次はちゃんと見よう。
間隔を置かずに2戦目が開始。
ふむふむ、空閑君は機動型なんだ。
何となくだけど、身長低め=速いってあるよね。私もまあまあ速い方なんだけどなぁ。
私の事はどうでもよくて。
何度か攻撃を防いだけど、背後からトリオン供給器官を一刺しされ、空閑君は緊急脱出。
『空閑、緊急脱出。2-0、緑川リード』
「あ〜っ!!」
あと、どこか動きがぎこちない。
……迅さんが言うには戦闘慣れしてるってことだったけど、ボーダーのトリガーに慣れていないとか?
うーん、それはまああるかもしれないけど、戦闘慣れしているならそこは感覚ですぐ慣れそうな気がする。
それに、この前京介に聞いたけど……空閑君って桐絵が師匠なんでしょ?
緑川君には失礼だけど、桐絵が師匠ということは……空閑君、強い方に入るんじゃない?
「あー、結構経験の差あるなぁ」
「けいけんのさってなんだ! ゆうまもミドリカワにまけるっていうのか!?」
「いや、逆逆。見てな、そろそろ勝つぞ」
3本目開始。
先程と同じく緑川君が空閑君に向かっていく。
これまでだったら空閑君はやられていたけど……3本目は違った。
緑川君の攻撃を横に躱し、片腕を犠牲にしたものの空閑君は緑川君のトリオン供給器官を一刺ししていた。
『緑川、緊急脱出』
2-1
今まで0点だった空閑君のスコアが1に切り替わった。
「捕まえた。もう負けはねーな」
「うん?」
「どういうことですか?」
「ウチの隊の攻撃を4対1で凌いだやつが、緑川1人を捌けないわけねーだろ」
なるほど。
つまり今までの2点はわざと負けていたのか。
「なんかしんねーがおチビのやつ、緑川をボコボコにしたいらしい」
やっぱり空閑君、怒ってるんだ。
彼が怒っている理由なんて考えるまでもない。三雲君だ。
「三輪隊を1人で相手したって……もしかして、前聞いたやつ?」
「正解」
三輪隊が城戸さん直々からの任務で失敗したという話を前に聞いた。
そして今、空閑君が三輪隊を1人で相手して勝ったと米屋君が言った。
……なるほど。
確か空閑君はブラックトリガーを持ってるって聞いたから、ブラックトリガーを使って三輪隊を1人で捌いたのだろう。
ボーダーのトリガーを使おうが、ブラックトリガーを使おうが、空閑君が戦闘慣れしている事実は変わらない。
……これ、緑川君の方がやばいかもね。
2022/2/23
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