終業の時間

side.浅野学秀



総合491点

英語99点
国語100点
社会95点
理科97点
数学100点

___総合順位2位
これが、今回僕の……浅野学秀の期末テストの結果だ。


『E組と“賭け”をしていたそうじゃないか。そして、その賭けに君は負けた』

『全校中に話が広まった以上、E組の要求はそう簡単に断れないよ?』

『どうする……学校が庇ってあげようか?』


入学して以来ずっと1位をキープしていた。頂点へと立ち続けていた。今回の賭けも勝てると思っていた。
なのに五教科全てを100点とった奴がいる。


「……苗字名前」


この椚ヶ丘中学校に来てから一度も名を聞いたことがない。何故ならその女子生徒はつい最近この学校に転入してきた人物だからだ。
全て100点をとったものがE組に転入?意味が分からない。


『私の事を首輪を付けて飼ってやるって言ってたね。ありもしない私の秘密を暴こうとしたり……よく言えたものだね。同い年との賭けにも勝てない“未熟者”に』


あの人は絶対に何かを隠している。
この賭けに勝利する事でその真実を暴くはずだったのに……!



***



『初めまして、生徒会長さん。私は苗字名前、最近E組に転入してきました』


ニコリとこちらに愛想良く微笑む女子生徒。僕にはその表情がすぐに“偽り”である事が分かった。何故なら、あの人によく似た表情をしていたからだ。
何かを隠すように微笑を浮べる……今最も見たくない表情だった。


総合500点

英語100点
国語100点
社会100点
理科100点
数学100点


苗字名前……国語と数学しか同点を取ることが出来なかった。それ以外は全て敗北……そう、あの女は五教科全て100点という成績を出したのだ。

各五教科1位など僕に簡単な事であるはずなのに、苗字名前は全ての教科において一位を収めた。それは総合一位でもあるという事だ。
僕は8点差で負けたのだ。……E組に、苗字名前に。


『苗字名前。お前に話がある。放課後、時間を空けておけ』

『えー?浅野クン、学年一位の人に命令できんの?しかも賭けに勝ったE組所属の人に』

『大丈夫ですよ、赤羽君。実は理事長に用事があって近々顔を出す予定だったんです。良ければ貴方のお話が終わった後に、理事長室まで案内してくれませんか?』


何故E組の言う事を聞かなければならない。まあしかし、こいつがどんな手を使って100点という点数を叩きだしたのか聞き出してやろう。……そして、E組について吐かせてやる。
初めはそのつもりだった。


『ではまず最初に……その“お淑やかな女子生徒”という仮面を剥いで貰おうか』

『! ……下手だったかな?僕の演技は』


あっさりと偽っていた事を明かした苗字名前。
確かに人と話す際、沢山の偽りの仮面を被る人間はいる。目の前にいるこの女はその模範だ。
しかし思っていたより生意気な性格のようだ。態度はでかい、口調はどこか馬鹿にしているような雰囲気を感じる……気に入らない。


『君はその目で、その耳で確認しなければ納得しないんだろう?その性格を見るに、表面上の言葉だけでは信用できないとみた』


今日こうして会い喋っただけだというのに、僕の性格を見抜き始めている。彼女の鋭い澄んだ青色の瞳を見ていると、何故か射貫かれている気分になる。


『……だからなんだ』

『そんなに知りたいのなら、またE組に勝負をすれば良い。そして、君が勝った暁にその疑問を理事長に話せば良い』

『何故僕からE組に勝負を申し込まなければならないんだ』


そもそも、貴様がいる時点で確率が100%になっていないんだ。次の中間テストでも此奴は間違いなく好成績を叩き出す。
……認めたくないが、結果は結果だ。今回の期末テストで僕が負けたのは事実なのだ。


『……ふん、どうやら素直に吐く気はなさそうだ』

『信じてくれないものかね〜』

『信じる?E組である貴様を信じろというのか?』

『別に?……あと、その貴様呼び止めてくれるかな。見下されるのは嫌いなんだ』


ほぅ、自分が偉いと思っているわけか。E組の分際で。
どのような経緯でこの女が椚ヶ丘中学校にやってきたかは分からない。そのことについて上手く流されてしまったからな。
しかしその態度は自信の現れで間違いない。……認めてやろう、この僕に並ぶ程の実力がある事を。


『次の中間テストでは僕が一位を取る。そして、貴様を支配する』

『やってみなよ。僕は束縛されるのが嫌いなんだ』

『苗字名前だったな』

『そうだよ、浅野学秀』

『その頭に刻んでおけ。貴様を支配するのがこの僕であることを___“名前”』

『面白い事を言う。ま、その日が来るといいね?___“学秀”』


今まで奪われる事のなかった一位の座。悔しいことに変わりないのに、どこか清々しいと感じていた。
それはあの女が相手だったからなのか、あの態度を自分自身の手で矯正したいからなのか。


「……ふん、次のテストで一位をとるのはこの僕だ」


それはまだ分からないけど、ただ一つ分かっていることは___次の中間テストが少しだけ“楽しみ”だと言う事だ。



終業の時間 END





2021/03/29


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