終業の時間
「一人一冊です」
終業式が終わり、教室に戻ってきたE組。
HRで渡されているのは辞書よりも厚い『夏休みのしおり』だ。それを取りに教卓の前まで来た僕だが……
「う゛っ」
ターゲットからしおり渡された瞬間、不覚にも呻き声を出してしまった。
ま、待て……これは……。
「だ、大丈夫ですか?」
「た、ターゲット……お、重すぎて持てない……っ」
「にゅ!?」
「「「ひ弱過ぎるだろ!?」」」
実は僕、あり得ないほどに筋力がない。
これは僕自身の体重が身長165pの割には体重が40s代な事が由来している。何故かと言うと理由云々は省かせて貰うが……“最強の殺し屋”を目指す為に自分の身体をかなり弄ったのだ。
僕は変装と持ち前のスピードを生かした暗殺がメインだ。しかし、それだけでは最強の殺し屋には届かない所か背中さえ見えない。
だからまずは速さを伸ばすために必要最低限の脂肪・筋肉を残してあらゆる肉を落とした。あ、別に太ってた訳じゃ無いから。そこは勘違いしないように。
その結果、速さと引き換えに筋力が落ちてしまった、という訳だ。……実は赤ん坊すら持てない。
「代わりに持つよ」
「くっ……こんなふざけた事で恥を晒す事になるなんて……!」
辞書……じゃなかった。夏休みのしおりは磯貝が机まで持っていってくれた。……なるほど、こういう男性の行動に女性は胸を高鳴らせるのか。不覚にも少しだけ胸が高鳴った。別に惚れたとかそういうのはないからな?勘違いするなよ。
「恐れられてる殺し屋がこんなにも弱々しいとなると、イメージ変わっちゃうな〜」
「なっ!? 絶対に言うなよ!? バラすなよ!!?」
「「「すごい必死だ……」」」
イメージが変わるのだけは絶対ダメだ!!
長い時間を掛けて殺し屋レオンという人物像を作り上げてきたんだ。こんなところで崩されバラされるのだけは……!
***
side.イリーナ・イェラビッチ
「……!」
周りから笑いやらツッコミの声があがったりしているが、私には驚きしかなかった。
ナマエとはここ椚ヶ丘中学校で約二年ぶりの再会を果たしているんだけど、その間にナマエはかなり変わっていた。
まずは雰囲気。まあこれは貼り付けているだけで中身はそう変わってないように見える。しかし、今目の前で見たあの様子は……。
「? どうかしたか」
「! い、いえ……別に何もないわ」
ナマエはあんなにも非力だったかしら。
……まさか、何か変なものに手を出しているんじゃないでしょうね。それも、人間という範囲を超えるようなの事を。
2021/03/28
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