終業の時間



体育館へ入ると、僕等に気づいた潮田がこちらに近付いてきた。


「カルマ君に苗字さん。そろそろ整列しておかないと」

「えー。仕方ないなぁ」


赤羽は「帰りも一緒に行こ〜ね」と言って前列へ向かって行った。
僕の前には潮田一人だ。やはり顔が僕好みだ、と別の事を考えてしまう。


「ところで、僕は何処に並べば良いんだい?」

「苗字さんは一番後ろみたいだよ」

「そうなのか。親切にどうも、潮田」

「『渚』でいいよ。みんなそう呼んでるし」

「そうか。なら渚、ありがとう」


渚にお礼を言い、僕は女子が並ぶ列の一番後ろ…矢田の後ろに並ぶ。


「あ、来た来た!よっ、MVP!」

「待ってたよ〜苗字さんっ」


僕が来た事に気づいた不破と矢田がこちらを振り返る。隣は村松か。ちらっと見ると目が合い、向こうが軽くお辞儀をしたので僕も返して置いた。


「私、もっと苗字さんと仲良くなりたいから『名前』って呼んで良い?」

「私も私も!」

「別に構わない。というより、始めに言わなかったか?」


転入初日に言った気がするんだが……まあいいか。
自分たちのことも名前で呼んでくれ、という二人の会話に適当に頷いていると、一つ列がズレた。どうやら誰か割り込んできたらしい。僕の隣は村松から吉田へ変わる。


「あれは……律?」

「律は動けないでしょ?」

「いやどう見てもあれはテストの時にいた偽物だろ……」


気になったので烏間殿に聞いたのだが、どうやらあの女は彼の直属の上司の娘だという。防衛省の人間も色々と大変だなぁ……。
てか変装するならもうちょっとマシにならなかったのか!?


「あのAIに寄せるならまず元々の顔じゃダメだ。マスク被らせてもう少し目を開かせてその後にカラコンを入れる、これまでが最低ラインだ。もう少し寄せるなら化粧を施して睫毛、チークとか諸々……」

「名前がなんか呟きだした!?」

「あれか?自分も変装するから、あの偽律に思うところがあったとか?」

「これがプロ魂ね!!!」


何か色々言われていたらしいが、僕はあの変装について気になってちっとも耳に入っていなかった。



***



終業式が始まり、騒がしかった体育館内は静まり返る。
先程不破……じゃなかった。優月だったな。
優月が言っていたのだが、どうやらこの式事の際にはいつも“E組いじり”というとてもくだらないものがあるらしい。
あるらしい、のだが……


「……えー、夏休みと言っても怠けずに!えー、あー……ん゛んっ、E組のようには……ならないように……」


校長の言葉が詰まったりして、聞いてて居心地の悪い。言いにくいのなら、そうだとはっきり言えばいいものを。

しかし、これの何処がいじりというのだろうか。
左側から「悔しい」やら「気まずい」といった動揺の感情が飛んでくる。なんなら他クラスの人間共はちらちらとE組諸君を見ている。

それに対しE組からは堂々とした様子で前を向いている。清々しいその姿に他の本校舎生徒達は指をくわえているのみだ。


「……しかし、つまらないな」


話は長いし、さっきから目線が刺さってイライラするし。要するに暇なのだ。
先程携帯を取りだそうとしたら烏間殿から「ダメだ」と言いたげな視線をぶつけられたのだ。

僕に学校のルールとかそういうものを押しつけないでくれ。そもそも学校に通うなんてこれが初めてだし、何故校則云々に僕が縛られ、守らなきゃいけないんだ。


「吉田、これ終わったら起こしてくれ。僕は寝る」

「はぁ!?……ってもう寝てるし!」

「立ったまま寝るなんて器用だね〜」

「いや、そもそも堂々とここで寝る精神がすげぇわ……」

「やっぱり総合一位は格が違うわね〜」


人前で寝るなんて無防備だ。……なんて思ってるだろ。
寝ていても気配で起きられるよう訓練済み。寝ていても無防備ではない。逆にその様子を利用して先制攻撃だってできる。
弱点となり得るものを如何に攻撃に起用できるか。……それが、最強の殺し屋に近づく第一歩さ。





2021/03/28


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