暗殺者レオンの目的
side.潮田渚
「ま、まぁ……一応お礼を言っておくわ」
先程まで行われていた『ビッチ先生と烏間先生をくっつけ作戦』だが、成功とは言えないけど失敗とも言えない結果で幕を閉じた。
……これは僕個人の感想であり、もしかしたらほとんどの人には失敗って見えてるかも。
「今日は飲んで飲みまくるわ!!」
「一人酒か〜?」
「いや、ナマエを誘ってるから、二人で飲み明かすわ!!」
やけ酒か…と思って聞いていたら、まさかの苗字さんの名前が出てきた。……って今、飲むって言った!?
「そういえば名前、リンって男性に変装してたときにお酒飲めるって言ってたような……?」
「え、まさか僕と一対一で戦ってる時には既にお酒飲んでたって事!?」
アルコールを摂取していると、少量だとはいえ多少身体に影響が出るはず……。そんなハンデを抱えたまま僕は苗字さんと戦っていたのか……!
「ナマエはワインが好きよ。覚えておくといいわ」
「なんで!?」
いつ必要になるか分からない知識をビッチ先生が暴露する。……っていうか、苗字さんって僕達と年齢一緒なんだよね?未成年なのに飲酒してるって事!?
「大丈夫なんですか……?」
「ナマエは酒豪ってわけじゃないんだけど、普段から飲んでるわけじゃないわ。依頼以外では極力飲まないもの」
「ビッチ先生今さっき苗字誘って飲むって言ってなかった……?」
「お酒ってがぶがぶ飲んでるから酔っ払うのよ。ちゃんと自分に適切な量を分かっていて、摂取する頻度を考えれば人前で酔っ払ったりしないわ」
「じゃあ名前さんはそれを分かって飲んでるって事ですか?」
「当たり前よ。因みに、日本では20歳から飲めるように決まっているみたいだけど、他の国によって何歳から飲めるのか決まっているわ。因みに私の記憶が正しければ15歳から飲める国はなかったわね」
「「「ダメじゃねーか!!!」」」
僕には殺し屋の世界がどんなものなのか分からない。
もしかしたら飲まざるを得ない状況がある事を想定して、飲んでもターゲットの前では一切隙を見せないように…そう訓練させられていたのかな。
「うーむ。できれば彼女に未成年の飲酒を止めさせたい所ですが、暗殺者である以上必要な事なんでしょう……」
「あの顔で年齢を捏造しているからね。流石に30歳のフリはやっていないけど、20歳前半まではあの顔で通してたはずよ」
「俺達がいつも見てるあの顔で?」
「いいえ、変装してに決まってるじゃない。あの子の変装テク、舐めない方が良いわよ?本当に別人に見えるから。……まあそれ以前に、どんな化粧でも別人に化けてしまうあの顔が一番怖いのよね」
「あー確かに。女性店員とリンって男性の変装、全く別人に見えたもんな……」
確かに、あの女性店員は本人も言っていたように愛らしい看板娘的な雰囲気だった。そしてリンという名で化けていた男性の姿は、少し幼い部分が見えていたものの女性店員の面影は全くなかった。
「ってイリーナ先生!まさかこの後苗字さん来るって事ですか!?」
「そうよ。何で?」
「私良い感じに見送ってしまいました……」
「別に気にしてないと思うわよ。それに、あんた達が寝ている時間帯に約束したから」
「えー!ビッチ先生だけズルい〜!」
「大人の時間なんだからいいでしょ」
「名前は私達と同い年だよ」
「ナマエは別よ!」
そういえば、苗字さんとビッチ先生の馴れ初めを詳しく聞いた事ないや。断片的にしか聞いてこなかったから、この機会に聞いてみたい。
「ねぇビッチ先生、ビッチ先生は苗字さんとどうやって出会ったの?」
「確かに!気になる気になる〜」
「馴れ初め?…………う〜ん」
僕の質問に倉橋さんを始め数人が賛同する。
今回鷹岡先生の件で裏から僕等を守ってくれた苗字さんに対するクラスメイトの好感度は爆上がりだ。そんな彼女の事をみんなも知りたいのだ。
しかしビッチ先生の返答はあまり良くなさそうで。
「ごめんなさいね。ナマエ個人の話は言わない約束なの」
「そういえばそれ、名前が来た時も言ってたよね?どうして?」
中村さんがビッチ先生にそう質問する。
ビッチ先生は苗字さんがレオンとしてイトナ君とシロさんと同行していた頃、謎の人物だった苗字さんの正体を看破したが、その人物像については一切語らなかった。
殺し屋としての苗字さんについてはロヴロさんと一緒に教えてくれたけど、あの時も解釈違いをしていて『苗字さんは自分について話されるのが嫌い』と僕等も思っていた。
あの解釈違いはこうとも言える。……ビッチ先生は苗字さんについて誰よりも詳しいのでは、と。
当たり前だが僕等よりも付き合いが長い。だから苗字名前という人物像を良く知っているはず。なのにそれを話したがらない……一体どうしてなのか。
「それは……本人も言っている様に『レオンという暗殺者像を保つ』為。だから個人情報は常に守っているし、素顔も晒さない。イメージを崩されたくないのよ」
「……ねぇビッチ先生。ビッチ先生は名前の性別を知ってるの?」
その質問を投げたのはカルマ君だった。
期末テスト明けからカルマ君は誰がどう見ても分かるようなアプローチを苗字さんにしており、誰の目にもカルマ君が苗字さんに好意を抱いているのは分かっていた。
だからなのか、カルマ君がその質問を投げたのは納得できるような気がした。
「知ってるわ。でもそれはあの子が一番守りたい情報よ。桃花と莉桜、夕方興味本位であの子の服を脱がそうとしてたけど…あれは一番嫌がる行為だからしないようにね」
「でも名前、楽しそうだったよ?」
「あれは防衛省の人間に監視されていたからよ。監視下じゃなかったら何されていたか……」
ビッチ先生から告げられる苗字さんについての言葉。
それはまだ僕達に対して厚い壁を苗字さんが張っているようにしか、僕には聞こえなかった。
2021/04/04
next
戻る