学園祭の時間
side.赤羽 業
久しぶりに見た名前は、あの日彼女を連れて帰った人___ラファエルという男の後ろに隠れていた。しかも何かに怯えているように。それを見た俺は、名前が子猫のように見えたんだ。それくらい怯えてたってこと。
いつもの名前と違ったからか、イタズラ心がざわめいて、ついつい意地悪をしたくなった。わざと耳元で話しかければ、良い反応をする。振り返った名前は気づいていたか分かんないけど、赤かったよ顔。その顔がなんと可愛いことか。
そうだ、たまたま持ってたコスプレ衣装。渚くんに着させるつもりだったんだけど、名前に着て貰うのもアリだね……♪
なんて思っていれば、中村さんが名前に気づいてこちらにやってきた。丁度良い、中村さんと一緒に名前を追い詰めよう。
そう思っていたが、名前は何かを察したのか逃げ出した。だが、彼女のその選択で名前に気づいた人が増えた。
「みんな、名前を捕まえて!!」
中村さんがそういえば、空いていた者達は名前を追いかける仲間に加わるわけで。人数を数えるのはめんどくさいからやってないけど、割と大人数で名前を追っていた。
けど、トップに食い込むと言うだけあって名前は足が速い。体育祭でも余裕で一位を独走していたし。追いつくどころか、距離を離されている。どんな体力してるんだ……。
「あれ、苗字が向かってる先って確か、殺せんせー用に仕掛けておいた”罠”があったような……」
なんて思っていれば、誰かがそんなことを呟いた。
へぇ、罠ね。
「でも苗字のやつが引っかかるとは思えねーし……」
「けど引っかかれば簡単に捕まえられるよ!」
俺も名前が簡単に罠に引っかかるとは思わないね。名前にとって罠なんて日常的なものだろうし、回避しているに決まってる。
……と、思っていた時だ。
「うわああっっ!!?」
聞き馴染みのない悲鳴。そして。
「な、なんだこれ!?」
「「「引っかかったー!?」」」
目の前に見える、驚きの光景。これがデジャヴって奴なのか。
そう、さっき誰かが呟いていた事が現実になったのだ。
しかも、今の名前は律儀に制服を着ている。本人は性別を明かしていないけど、名前は女子生徒としてE組にいる。つまり何が言いたいのかというと……名前はスカートを履いているって事だ。
どうやら名前にも羞恥というものはあるようで、網の中で必死に中身が見えないようにしている。___見ていたら加虐心がわいてきた。
「わわっ、揺らすなっ、揺らすな〜〜っ!!」
「え〜? 聞こえないなぁ」
今、俺の目の前には罠に引っかかって宙に拘束された名前がいる。網の中に閉じ込められた名前はどうにかして脱出しようとしているのかもがいている。
必死にスカートがめくれないように頑張っている恵野が可愛すぎて、段々と緩くなる口元。暗殺者だけど、俺たちと同い年。そういう年頃て気にしない方が考えにくい。
「も、もう許してくれ……っ」
「カルマ、名前もこう言ってるしさ……病み上がりなんだから許してやれよ」
そうだった。名前は病み上がりだった。
あまりにも元気だったから忘れてたよ。涙目で訴えてくる名前をみながら、そういえば、と思い出す。
「はいはい、分かったよ磯貝」
涙目だった名前が可哀想に見えたのだろう。磯貝は名前を閉じ込める罠をゆっくりと丁寧に解除していく。最後に網から名前を出してやった。
「助かった悠馬、君だけがこの場での希望だ……!」
「普通に降ろしただけなんだけど……まあ、どういたしまして」
「悠馬、君は恩人だ! 助けてくれたお礼に、何でも言うことを訊いてやろう!」
なんで上から目線……。というより、気に入らない。
少し前から2人は何かと一緒にいることが多かったけど、体育祭を経てからもっと距離が近くなったように感じる。
……面白くないなぁ。俺、結構分かりやすくアピールしてるのに。牽制って知ってる、磯貝?
それとも……俺に対して宣戦布告でもしてるって訳?
「なら場所を変えよう。……俺たちが聞きたい事なんて、名前は分かってるだろ?」
「……流石に無視させてくれないか。はぁ、仕方ない。恩人の頼みだ、答えられる範囲で答える」
名前との会話に区切りがついたからなのか、磯貝がこちらに気づく。そして、どこか真剣な眼差しを向けられた。
……その顔。本当に宣戦布告って受け取るよ、磯貝。
2024/01/27
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