死神の時間


side.堀部糸成



「ふっ、無謀ね。確かにカラスマも人間離れしてるけれど、彼はそれ以上。そこのタコですら、簡単に捕まえたのよ」

「ビッチ先生……」


首に付けられた爆弾を普通に外したビッチ先生。その表情は普段と違う。きっと、こう言うのだろう……殺し屋としての表情だと。


「こんなこと、名前が知ったら悲しむよ!」


だが、この事を名前が知れば、どんな顔を見せるだろうか。
俺達とビッチ先生は1年も満たない時間しか過ごしていない。しかし、名前とはそれ以前からの仲だと聞いている。

矢田がビッチ先生に対し放った言葉は、俺にとって興味のあるものだった。


「名前? なんであの子が今出てくるの?」

「ビッチ先生と名前は友達でしょ!?」

「あのね、殺し屋には友達なんてないの。殺し屋の世界なんて、騙し騙される世界なんだから」


騙し騙される世界、か。
ビッチ先生が言いたいのは、騙された名前が悪いってことか?


「”イリーナ。手伝って欲しい”」


ビッチ先生が耳元に指を当てる。髪で隠れているが、耳に通信機を付けているのだろう。そして、相手は間違いなく死神だ。


「……分かったわ」


そう言って銃を構えたビッチ先生。俺達に何も言わず何処かへ行く。
……ここで狙われる可能性が一番高いのは、烏丸先生だ。まさか、あの銃で烏丸先生を……?


「皆さん、1つ聞きたいのですが。苗字さんと連絡は取れましたか?」

「ううん。殺せんせーは?」

「お昼休憩中に取れたのが最後ですね。ブラジルで君たちと連絡が取れないことに気づいて、苗字さんにも連絡を取りました。しかし、繋がらなかったので此処にいると思ったのですが」


殺せんせーが俺達に尋ねたのは、名前についてだ。
だが、どうやら放課後から名前と連絡がつかないらしい。


「昼と放課後の違いか……。違いと言えば、死神が現れたことか?」

「そして、死神の指示で名前ちゃんにも連絡したくらいだよね」

「……もしかしたら、ここに向かっているかもしれませんね」

「「「えぇっ!?」」」


あれだけ触手に好き勝手されてしまったんだ。俺の推測では、まだ万全な状態に戻っているとは思えない。いくら触手の再生能力があろうとも、だ。


「苗字さんには、この件をどのように伝えました?」

「通話がダメだったから、メールを送ったんだ。今日の18時に地図の所に来る様に、って言われたこと、ビッチ先生が死神に捕まってるから助けに行くことを書いたよ」

「やっぱり、ビッチ先生が捕まっていることで動いているのかな……?」


大体皆の予想はそんなものだろう。俺もそうだと思っている。寧ろ、それ以外何があるだろうか。

周りの様子を窺っていて、俺は気づかなかった。
渚と殺せんせーが周りの会話に入らず、何か考え込んでいた事に。



***



side.×



「……ここが、彼らが送ってきた位置の場所か」


場面は変わり、地上。
場所は放水路入り口前。

そこには黒いローブを身に纏った人物がいた。


『この下は放水路になってるね。監視カメラのログを覗いてみたけど、君に送られたメールの内容に合致するものが残ってた』

「つまり、イリーナはここにいるって事だね」


声は中性的だが、女性のように聞こえる。
また、電子音混じりに男性の声も聞こえた。


『うん。けど、今日の分しか残ってないから、それ以前の内容は間違いなく誰かが意図的に消してるね。そうだ、今の彼らの状況を教えてあげようか』

「いらない。僕は彼らを助けるために来たんじゃない」


……死神とほざく奴が誰なのか、この目で見に来ただけだ。
そう呟いた人物のフードの奥から見える青い瞳は、怒りの感情を宿しているように見えた。


『……そう、分かった。一応言っておくけど、地下になるから電波は届かない。ナビゲーションもここまでだよ』

「ああ。……なら、ラファエル」

『んー? 何?』

「今から1時間で僕が戻ってこなかったら、迎えに来い」

『……なるほど。了解』


その言葉を最後に、男性の声は聞こえなくなった。
黒いローブを纏った人物は、耳元から手を離すと放水路の入り口へと1歩踏み入れた。

……1時間。
黒いローブを纏った人物は、何を持って通信機越しの男性にそう伝えたのだろうか。





2023/09/08


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