死神の時間
side.潮田渚
「さて、ここからが正念場だ」
脱出後、僕達は2つの班に別れた。片方はビッチ先生救出班、もう片方であり僕の所属する班はその援護だ。ビッチ先生救出班がスムーズに動けるよう、言ってしまえば足止めをする役割だ。
「聞こえるかな、E組のみんな」
……スピーカーから声が聞こえた。死神の声だ。
「実はね、君たちが逃げてくれて、とても嬉しかったよ! 未知の大物の前の肩慣らしだ、期待してるよ」
そう言い終えると、スピーカーから声は聞こえなくなった。
なんだろう、さっきの死神の口調だけで判断するなら、あの人はこの状況を……
「まるで……ゲーム感覚」
そう、速水さんが言った通り、死神は僕達とのやりとりをゲームのように思っているのではないか。そう感じたんだ。
鷹岡先生のような単純な執念じゃない。……死神の顔が、見えない……!
「……ここで迎え撃とう。多勢で掛かれば、こちらが有利だ」
「律、サポートをお願い!」
まず、相手は格上。同じ目線ではなく、外から見る目が欲しい。そんなときに彼女、律のサポートに助けられてきた。今回も彼女にサポートをお願いしようとした。
「やる気しねぇ〜。死神さんに逆らうとかありえねーし」
……普段の律なら絶対に言わないであろう発言と口調に、僕達は言葉を失った。
「働くくらいなら電源落とす!」
「「「ハッキングされてるーーー!!?」」」
そう、読まれていたのだ。
僕達が律にサポートを頼むことを。それを防ぐため、律を封じたのだ。
「?」
ふと気づいた。足音がする。
この状況で現れるとしたら……死神!
「な……っ!?」
「っ!?」
だが、それだけではなかった。姿が見えないのだ。
そこにいるのは分かるのに見えない。これが、殺し屋のスキル……!
「馬鹿が!!」
「ノコノコ出てきやがって!!」
村松くんと吉田くんが飛び出した!
……しかし、二人の攻撃は当たることなく、なんとすり抜けたのだ。そして、
「があっ!!?」
「ぐぅっ、」
発った一撃で二人を止めたのだ。それも、あの体育着を来ているというのに、だ。
「殺し屋になって一番最初に磨いたのは、正面戦闘だった」
死神が近付いてくる。彼のすぐ横にいたのは、木村くんだ。
「うっ!?」
……見えなかった!
木村くんが壁に向かって吹っ飛んだことしか分からなかった。
「殺し屋には99%必要ないスキルだが、これがないと残り1%の標的を殺り逃す。世界一の殺し屋を志すなら、必須のスキルだ」
死神の目の先にいるのは、近くて磯貝くんと前原くんだ。ふたりは構えたが、死神はその間を抜け___
「うぅっ!!?」
「おっと、流石に女子は脆い。残りの人質は粗末に扱えないな」
なんと、茅野を狙ったのだ。
茅野の腹に蹴りを入れた死神。そこから酷い音が聞こえた。
___その時、僕の何かが切れる音がした。
「……どいて、みんな」
周りから短く驚く声が聞こえる。
ここで何もできなきゃ、みんな殺られる!
「___僕がやる」
先程、茅野から聞こえた音は超体育着が衝撃を吸収した音だ。きっと死神は、茅野の肋骨を破壊した音と思い込んでいるはず。
そして、僕がそれに対し激怒していると思っているはず。
実際、怒ってる。
その怒気で殺気を殺して、死神に倒されたみんなのお返しをする。……この両手で!
何時ものように自然に。そのように、片手のみスタンガンを持った両手をあげた。
「……え?」
そう思ってた。
しかし、実際は両手が上がることはなかった。
「___っ!!?」
何が起きた?
死神の両手が見えたと思った時、強い衝撃が僕を襲った。身体が、動かない……!!
「うっ!?」
「ぐはっ!!」
「かはっ!?」
「うぅっ!!?」
「ぐっ!?」
後ろからみんなの倒れる音すら、僕は拾うことができなかった。
「クラップスタナー。ロヴロや君のでは、単なる猫だましだ。だが、このスキルにはもう一段階先がある」
クラップスタナー……?
猫だましと何が違うと言うんだ……?
「人間の脳には波長があり、波が山に近いほど刺激に対して敏感になる。相手の意識が最も敏感な山の瞬間に、音波の強い山を当てるんだ。その衝撃は、一瞬でビビらすなんてレベルじゃない。当分は神経が麻痺して、動けなくなる」
人の脳の波長を読み、刺激する。それが、僕との違い。
……これが、最高のレベル……!
「まあ、こんなものか。けど、僕が伝えた通りあの子を連れてきていれば、結果が変わったかも知れないけど」
さて、人数が足りないようだが……。
そう呟く死神の声を、麻痺した意識の中聞いていた。だから、すぐに気づかなかった。死神の言うあの子が、誰の事だったのかを。
2023/09/02
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