死神の時間



「おっ、車があるな」


旧校舎ことE組校舎に通じる道付近に設けられた駐車場。そこにイリーナは車を止めている。彼女の車は知っているので、その存在があるということは、まだイリーナはいるということ。

はぁ、可愛い友人だ。慰めてやらないと可哀想だ。……数週間放置してしまった僕にも非はあるしね。

さて、どうやって機嫌を直そうかな。
そう思いながら表に出ようとした。



「___僕と手を組まないかい、イリーナ」



……聞き覚えのある声。
2年ほど空いたけど、それでもはっきりと知っている声だと分かる。同時に頭に流れたのは……その顔と、奴が行った事柄。


「っ、くっ、うぅ……!」


ドクン、ドクンと大きく脈打った瞬間、項から全身にむけて激痛が走った。それは教室で感じたものより酷いもので、思わず座り込んでしまった。


「………で、………………。……だろう?」

「………ね。………、………しょう」


ダメだ、会話内容を聞き取れない……!
気を抜いたら、触手に意識を持って行かれる……!

それでも止めないと……っ。あのはダメだ、イリーナ……!



「!!」



痛みに耐えながらもイリーナのいる場所を覗き見た。その時だった___彼奴と、目があった。なのに彼奴は笑って見て見ぬフリをした……!

イリーナと彼奴が去って行く。くそ、待て、待て……!!


「ぅぐ……っ、はぁ、はぁ……ッ!」


ダメだ、この状態で追うのは後に面倒になる。まずはコイツを沈めないと……っ。
痛みに耐えながらも、うまく力の入らない足で立ち上がり、その場から移動する。どの方向を歩いているかなんて分からない。なるべく人のいない場所へ移動して、触手こいつを落ち着かせないと……!


「ぅ、あぁ……!!」


あたまが、割れそう……ッ!
やめろ、出てくるな……、僕のいう事を聞け……ッ!!



『殺したいでしょ? だって、貴女・・の大切な人を奪った人だもんね?』



その声が聞こえた瞬間、僕の意識は真っ暗になった。



***



side.堀部糸成


「名前、戻ってこないね……」


ビッチ先生の元へ行った名前を待つこと数時間。あいつの実力なら、この山道を降りるなど造作でもないはず。


「もしかしたらイリーナ先生と話し込んでるかもしれませんね」

「そうだと良いけど……」


殺せんせーが中村の声にそう返答していた時だ。


「!? なにっ!!?」


遠くで爆発のような音が聞こえた。当然視線は窓へ向くわけだが、俺の視界では何があったのか確認できない。


「近くで自爆の訓練でもやってたのか?」

「それはないはず。この辺りは自衛隊の訓練場所になっていません」

「じゃあ何なんだ……?」


生徒の言葉に冷静に返答しつつも、殺せんせーの視線はずっと窓を捉えていた。その表情はいつも通りに見えるのに、どこか真剣さを感じる。


「……!」


突然殺せんせーが窓を開ける。そして、そこから出て行こうとしているではないか。


「ちょっと待ってよ殺せんせー! どこに行くの!?」

「すみません、今すぐにでも止めに行かなくては……!」


そう言って殺せんせーは窓から出て行った。その数秒後、またもや爆発のような音が鳴り響いた。


「おい、見ろよあれ!! すごい土埃だぞ!!」

「やっぱり近くで爆発してるんじゃないのか?」

「……いえ、別のものが確認できます」

「何が見えたの、律?」


他の生徒の携帯から状況を見ていたのか、俺と同じ境遇でE組に送り込まれた生徒…自律思考固定砲台こと律が口を出した。


「これを」


本体の方に移動した律は、俺達にある動画を見せた。それはE組校舎から見える景色で、おそらく他の生徒の携帯から録画したものだろう。
それは先程の爆発を撮ったもので、数秒後に爆発が起こった。しかし律が伝えたいのはそこではない。


「拡大します」


砂埃の辺りを拡大表示する。……するとそこにはあるものが移っていた。


「しょく、しゅ……?」


周りは画質の荒さに何の事か分からなかったみたいだが、俺には分かった。……あれは触手だ。


「マジかよ、イトナ!?」

「間違いない。そして、その触手の主も予想が付いている」

「え、誰?」


他に触手を持つ存在が機会を窺っていたという可能性がないわけではない。だが、それよりもこの映像の本人である可能性が高い人物がいる。


「名前だ」


この教室で唯一触手を持つ存在である名前だ。外部からの刺客と考えるより、身近な人ではないかと考えた。特に名前が触手を持っていることを知っていたのなら、彼女を疑うのが当然だ。


「苗字……あっ、そっか、苗字は確か触手を持っていた……!」

「大方、触手が暴走したと考えるのがいいだろう」


予兆はなかったとも言えない。シロと話していた時の名前の様子が俺は気になっている。

俺の中で名前という人物は、感情を貼り付けた笑みの中に隠す人だと認識している。
だが、あの時の名前は”怒り”という感情がはっきりと読み取れた。先程烏間先生に対しての感情は、本人が告げるまで怒っていると気づかなかった。

殺し屋として名前は感情を表に出さないように鍛えているはず。だからこそ、あの時の名前が気になって仕方ない。


触手は宿り主に対し様々な影響を与える。強力な力を得る代わりに代償も大きい……その中に当時の名前に当てはまるものがある。___触手に意識を乗っ取られる、というものだ。

触手に意識を乗っ取られると、狂気的になり人間味がなくなる。この状態は暴走と言っても過言ではない。触手の本能に刺激され、乗っ取られ……時ががなくなってしまう。
この身を持って体験しているからこそ、どんなものか理解している。


「様子、見に行った方がいいんじゃない?」

「そうだな……よし、行こう皆!」


委員長の声に俺は頷く。周りと共に俺は爆発のような音が鳴り響いている場所へと向かった。





2023/05/02


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