リーダーの時間

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「お、苗字が入場したぞ!」


場所はE組生徒待機場所。
誰かの声に皆がグラウンドへと注目した。

現在のプログラムは女子長距離走。
1年、2年、3年の順で進んでいくようだ。

E組からは名前が出場しており、今は待機中のようだ。
レーンには1年が並んでいる。


「あ、もう入場してた……!」

「お帰り、カルマ君」

「ただいま。あ〜あ、前の種目が俺が出るヤツじゃなかったら応援の言葉掛けられたのに〜」


渚の隣に来たのは、女子長距離走の前に行われたプログラムから帰ってきたカルマだ。
名前に応援の声を掛けられなかったからか、少し不満そうな顔をしている。


「まあでも、まだ苗字さんの出番じゃなかっただけ良かったんじゃない? 間に合わなかったら最初から応援できないよ」

「それもそうだね」


渚の言葉にカルマはまだ良かった方だと納得し、グラウンドへ視線を移した。
彼の視線の先にいるのは、ニコニコと明らかに猫被っている苗字だ。
その隣には、この女子長距離走で一番の注目の的であろう人物、記録会で大会新記録を叩きだした陸上部所属の女子生徒がいる。


「あら、ナマエ出てるの? めずらし〜、こういうの乗らない子だと思ってたのに」

「あ、ビッチ先生じゃん」

「あっついわね〜。こんな炎天下で元気ね、ガキ共は」


日傘をさしてその場に現れたのはイリーナだ。


「ねぇビッチ先生。名前って足が速いけど、長距離走というか、長い距離を走ったことあるのかなぁ」


ふと思い着いたように、矢田がイリーナにそう問いかける。
E組生徒は名前の足が速いことを知っている。

しかし、その速さを保つ事に必要なものの一つである”体力”はどれほどなのか。
矢田はそれが気になった。


「私に言われても知らないわよ。でも、あの子の速さは本当に尊敬するわ」

「そうなの?」

「ええ。あれだけ身長が高いとあまりスピードって出にくいのよね。胸も邪魔だろうし」

「巨乳……!!」

「茅野っち……」


胸にコンプレックスを抱くカエデは、イリーナの何気ない会話の中にあった『胸』というワードに反応する。
その様子に岡野が苦笑いを浮べた。


「でも、あの子昔は結構小さかったのよ」

「へぇ、意外!」

「それでね……あ、これは話したらアウトね」

「え? 何々!?」

「勿体ぶらないで教えてよ〜」


イリーナが名前との思い出を懐かしむよう語っていたが、突然話を止めた。
その理由は……


「(これを話したら、ナマエの性別がバレちゃうものね。あの子は隠したがっているから……危ない危ない)」


イリーナが口にしようとしたのは、外見で男女の違いがはっきりしている場所。
名前が殺し屋として売りにしている変装で、最も知られてはいけないと言い張るのが性別だと言う。

E組生徒は名前が女子制服を着ている事もあって女子と認識しているが、本人は転入時に女だと思わないように、と言っている。
なので実際は生徒達に性別を明かしていないのである。

……だが、制服の影響で誰もが女子と認識していることを本人は気づいているのだろうか……。


「あ、もうすぐ2年の番だね」

「苗字の出番まであと少しだな!」


1年の番が終わり、次は2年の番だ。
スターターの合図で2年の長距離走が開始された。


「……名前、笑顔だな」

「あれ、猫被っているだけよ」

「何故だ?」

「本校舎の生徒と関わるのが面倒だからだとよ」


目の前を通過する2年女子ではなく、待機中の名前を見つめていたイトナがふと疑問を口にした。
その疑問に答えたのは狭間と寺坂だ。


「彼奴の事、イマイチわかんねーんだよな」

「そうなのか?」

「ああ。前にその……シロのヤローに利用されたときも、俺にアドバイスというか励ますような事言ってたし」

「そんなことが……」

「リゾートの時は裏切りもんかと思えば違ったしよ」


寺坂の中で苗字名前という存在は、定まってきたと思えばまた違う顔を見せる……人物像が定まらないという認識だ。
自身がシロに利用されていたときは、シロの仲間のように見えていたのに実際は違い、むしろ敵対していたり、リゾートの時は鷹岡の下に着いていたと思えば、実際は状況を悪化させないようにと操っていたり……。

つまり、寺坂にとって名前はよく分からない存在なのだ。


「良く知っているわけじゃないが、名前は……きっと優しいんだと思う」

「優しい? あんな上からのヤツがか?」

「ま、確かに何だかんだ面倒見いいもんな、アイツ」

「イトナ限定だろ」


確かに名前はイトナに対する態度が他の生徒とは一戦を引いている。
それはイトナに対する罪悪感から来ているものだったが……。


「それはもう止めるように言った」

「なんで? いいじゃんか、面倒見て貰えるしよ」

「……アイツは責任で俺を見ているだけだ。それが俺は嫌だった。だから止めろって言った」


イトナはそれを嫌がった。
その理由は何なのか……寺坂達は分からず首を傾げるだけだった。


「あ、2年が終わった!」

「ようやくお出ましだな!」


2年の長距離走が終わり、プログラムも終盤に入った。
次は3年の出番だ。


「引き離してやるわ、E組」

「お手柔らかに」


女子生徒に物腰の柔らかい態度で接する名前。
しかし、その表情は偽りだ。


「(それは僕の台詞だよ。その余裕そうな顔が崩れたとき……あぁ、楽しみだ)」


心の内でニヤリと笑みを浮べる名前。
そう心の中で思っている事を、名前に強く当たる女子生徒は気づいているだろうか。





2022/01/23


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