リーダーの時間



「ここのハニートーストが絶品でねぇ〜。これに免じて磯貝君のバイトには目を瞑ってます」


ターゲットはそう言いながら、ハニートーストとやらを口に含んだ。
って、目を瞑っている?

そういえばさっき、さらっと流したけど前原が「バイトしていることを黙ってやってる」と言っていたな。


「でも皆さん。いくら彼がイケメンでも、さほど腹は立たないでしょう?」

「え?」

「あ〜……うん」

「それは何故に?」

「何故って……」

「だって、単純に良いヤツだもん、彼奴」

「「「「うん」」」」

「それ以外に理由いる?」


ま、彼らの言葉は僕も同感だ。
普通に接しても常識があると思うし、気配りもできる。
自分が悪いと思った時は素直に謝れるしな。

……いつか彼奴の裏を暴きたいとは思っているけどね!


「……なぁ。さっきから思っていたんだが、バイトはしてはいけないことなのか?」


会話に一段落がついたので、気になっていた事を質問する。
僕の質問に先に口を開いたのは渚だ。


「うちの学校は校則で禁止されてるんだ」

「……出た、校則」


嫌いなんだよねぇ、そういうルールって。
ま、そもそも殺し屋の存在なんてルール破りみたいなものだけど。


「でも、さっき聞いた内容だとやむを得ないように聞こえたけど?」

「ええ。なので先生も黙ってます」

「……なら何故それを改善してやらないんだ?」

「苗字?」


ふと零れた言葉。
それは周りからすれば、磯貝を庇うような言葉だったかもしれない。


「磯貝は家計を支えるために金を稼いでいる。事実、生活に金はどうしても必要だ。だけど、彼の家庭でまともに働けるのが磯貝のみ……。それを学校側は把握してるのか?」

「私は知っていますが、本校舎の方はどうでしょうねぇ」

「磯貝はバイトしてたからE組に落とされたんだ。……多分向こうも把握している」

「なら尚更なぜ」

「……そういう学校ってことなんじゃないかな」


決められたルールには従うしかない。
校則にそう決まっているのだからしかたない。

……君たちは素直だねぇ。
そんなものを正直に守っているなんて。

僕達殺し屋の中でルールは存在しない。
だけど、暗黙のルールのようなものはある。
……それを守っているやつがいるとは思えないけどね。

どちらにせよ、僕がいいたいことはこれ。


「上に立つ者、ルールを作った者。そいつらはそのルールを守れない奴のことを考慮しなければならない。その可能性も考えた上で定めるべきだと僕は思うけど」

「そんなの、あの生徒会長……ましてや理事長が許可するかな」


生徒会長……あぁ、彼か。
そう思っていると再び店内にベルが鳴り響いた。

新しい客か、と思っていたその時だ。


「いらっしゃいませー! ……あっ」

「おやぁ〜? おやおやおや、情報通りバイトしている生徒がいるぞ?」

「いーけないんだ、磯貝君〜」

「……これで二度目の重大校則違反。見損なったよ、磯貝君」


そこにいたのは、頭に思い浮かべていた人物……学秀と、五英傑の4人だった。
……他の人の名前?
知らないね、興味ないし。


「……なんでこんな時に……ッ!」

「外に出て貰おうか」

「……分かった」


学秀と五英傑が店の外に出る。
磯貝も続いて外へ出た。

僕が分かるのは、この状況は間違いなく磯貝にとってまずいことだけだ。


「どうしよう……」

「とりあえず俺たちも行くぞ!」

「うん!」


前原の声に賛成した彼らは、磯貝の後を追うように店を出た。


「あなたは行かないんですか?」

「……どうして?」

「先程の言葉。先生には『間違ってる』と聞こえました。彼らに何か物申したい事があるのでは?」

「!」


まさかターゲットに僕の心情が見破られていたなんて。


「それに、あなたは黙って見ているような人にも見えません」

「……それは買いかぶりすぎだと思うけど」

「ヌルフフフ。さ、いってあげて下さい」


それは「言う」の方なのか、「行く」の方なのか……それともその両方なのか。
ま、あなたの目は僕の本心を見破った。
だから……


「分かったよ。お人好しのつもりはないけど、あのルールを聞いて黙っていられないからね」


そう言って席を立った僕の背中を、ターゲットはずっと見つめていたとか。





2022/01/12


prev next

戻る














×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -